バス置き去り死、園児守るには 専門家ら3人に聞く

亡くなった男児のために花束や飲み物が供えられた福岡県中間市の保育所=8月1日

1人で送迎バスを運転し「降りた」と思い込んだ園長、家族に確認せず欠席と判断した担任保育士 。福岡県中間市の認可保育所で7月29日、5歳男児が送迎バスの車内に取り―残され死亡した事故は、ずさんな対応が重なりました。惨事から子どもを守るための教訓は。保育の専門家や働く親の団体の代表、保育所経営者に聞きました。

保育士不足解消が急務
札幌国際大教授 品川ひろみさん(保育社会学)

園長は保育所全体を俯瞰(ふかん)して指示を出す役割があり、通常は自らバスを運転したりしません。この保育所は、人手を確保する余裕がなかったのではと思いました。待機児童対策で保育所が急増し、保育士不足は全国的な問題です。

バスの添乗職員がいなかったのも問題です。バスを降りて何人が登園し、誰が休みで、連絡なく休んだ園児の家族に理由を聞く。そんな基本的な人数把握の欠落が事故につながりました。

事故は園の内外で起こりえます。ロッカーに入った園児に気付かないとか、散歩中にいなくなるとか。各保育所は、これを機にリスクを最小限にするよう管理体制を見直してほしいです。 保育士不足の解消も急務です。保育士は子どもの命を預かり成長を支える重要な職業。一生の仕事として選ぶ若者が増えるよう、専門職としての処遇や社会的地位の向上が必要です。

保護者同士つながりを
「保育園を考える親の会」代表 普光院亜紀さん(東京都)

普光院亜紀さん

普光院亜紀(ふこういんあき)さん

事故が起きた保育所は、1歳児を含む園児7人を送迎バスに乗せて園長がほぼ毎日、1人で運行していたそうです。これを「おかしい」と感じていた保護者はいるはずです。でも、子どもを預けざるをえませんでした。そこに問題点があります。

働く保護者にとって、保育所は生活を維持するのに不可欠なので、不適切な保育に気づいても「転園を勧められるかも」などの不安から言いにくいのです。行政は法的違反 の有無だけでなく、苦情があれ ば運営実態を細かくみるべきです。監督の目が広く行き届かないと、子どもを守れません。

保護者がわが子を守るためにできる努力の一つは、保護者同士が緩やかにつながることです。たまに交流会を開く程度の小さな父母会活動でも、何かあった時には 父母会として意見をまとめ自治体や保育所に伝えれば、きちんと対応してもらえる可能性が高まります。

事故防止策、自主的に
札幌市私立保育園連盟会長
菊地秀一さん(三和新琴似保育園園長)

菊地秀一さん

菊地秀一さん

菊地秀一さん札幌では、送迎バスを運行しているのは、幼稚園や認定こども園で、認可保育所はほぼありません。今回の事故はあまりにも基本的なミスが多く、保育現場として教訓にできることはなさそうです。

まず園児がバスに残されるなんて考えられません。私の園は年数回、バスで公園や動物園に行きます。降車後に忘れ物がないか車内を点検します。仮に園児がいても必ず見つかります。

担任保育士は男児がいないと気づいたのに園長に報告しなかったと聞きます。これも不可解です。ましてやこのコロナ禍で、園児が休んだ理由は気になるはずなのに。私の園は事故が起きやすい場所を示した地図を作り職員が共有しています。例えば散歩コースで「この信号は変わるのが早い」「ガソリンスタンドがあり車の出入りが多い」などの情報を細かく書き込んでいます。多くの園は、このような事故防止策に自主的に取り組んでいます。

取材・文/有田麻子(北海道新聞記者)

送迎バス置き去り園児死亡事故

福岡県中間市の私立認可保育所に通う5歳男児が7月29日夕、送迎バスの車内で見つかり熱中症で死亡した。男児は車内に約9時間、閉じ込められたとみられる。運転していた園長は「降りたと思った。確認はしていない」と話し、県警は業務上過失致死の疑いで捜査中。中間市ホームページ(HP)によると同園は定員140人。同園HPによると従業員数35人。

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