【新連載|0カ月からの育児塾】親の困り事 解決手助け 北海道助産師会会長・高室典子さんインタビュー

少子化やデジタル化の進展など、子育てを取り巻く環境は大きく変わってきました。30年以上道内で産後の育児支援を続ける、北海道助産師会会長の高室典子さん(札幌)が、赤ちゃんとの関わり方のポイントを記事や図解、動画で解説する新連載「0カ月からの育児塾」を今月から始めます。今回は、高室さんに現代の育児の特徴や課題、新連載で取り組む内容などについて聞きました。

抱っこや授乳 楽しむコツ紹介

――今の育児をどうみていますか。

「育児の『伝承』ができなくなったと感じています。近所づきあいが希薄になり、親族も近くにいないなど、育児について気軽に聞ける人や場所が少なくなったからです。頼れるのは出産した産院だけという母親は少なくありません。ただ、産後の産院での入院期間は短縮傾向で、通常の帝王切開での出産でも1週間ほど。昔は2週間近く入院して、助産師から抱っこや授乳、おむつ替えといった基本を身につけた上で退院していました。今は基本を十分に習得できないまま自宅に戻り、育児をスタートさせているのが実情です」

赤ちゃんてこんな人

――それによって、どんなことが起きていますか。

「いざ子育てを始めても、わからないことだらけで困ってしまっている親が増えました。赤ちゃんを連れて、泣きながら助産院に相談にくる母親がたくさんいます。赤ちゃんがなぜかぐずる、母乳の出が悪いなど、医療機関に行くほどではない、生活の中での困り事がたくさん出てくるのです。今は何でもインターネットで調べられる時代ですが、さまざまな情報にあふれ、どれを選び取るかで、親の悩みは、さらに深まっているように感じます」

――「塾」を始める思いは。

「生後0カ月~4カ月が、最も親が育児に不安を覚える時期と言われています。以前は他の人が抱っこしたり、ゲップをさせたりしているのを見て、まねて習得していきましたが、それが難しくなった今、育児は『学ぶ』ものに変わりました。ですが、コロナ禍で行政などが行う母親・両親クラスが休止となり、状況はさらに悪化しています。育児のことを学ぶ場がもっと必要だと痛感しました。自動車で考えてみてください。初心者マークの人がいきなり路上で走りませんよね。育児も同じで、習ってから始めることがスムーズな育児のスタートには必要です」

高室典子さん

たかむろ・のりこ 札幌市出身。旭医大大学院看護学修士課程修了。1984年に助産師資格を取得、札幌市内の病院勤務を経て、94年に助産院エ・ク・ボ(札幌市西区)を開業した。2011年から現職。天使大大学院助産研究科教授など務める。4女の母。

――親からはどんな悩みが寄せられていますか。

「抱き方や授乳のほか、発育や発達、かかわり方などの相談が多いです。悩みの多くは赤ちゃんの食事や排せつ、運動、睡眠といった生活リズムが崩れると出てきます。解決のポイントは《1》赤ちゃん《2》母親《3》母子のマッチング―の3点を考えること。新連載ではこのポイントを説明しながら対応法を伝授していきます。特に《3》は大事で、『おっとり』や『せっかち』など、その子の気質を理解した上で対応すると、うまくいくというのが、母子支援を30年以上してきた私の考えです。楽しんで育児をする方法はたくさんあります」

――育児する親や祖父母に伝えたいことは。

「産後の母親は心身ともに疲れ切っています。母親は、いつも自分自身を褒めてあげてほしい。パートナーや祖父母には、母親をねぎらってほしいと思います。私はいつも『産んだだけで花丸なのよ』と伝えています。パートナーは、たくさん赤ちゃんに触ることが大切です。おむつ交換や沐浴(もくよく)などの育児行動は慣れなので率先して行ってください。『抱き癖がつく』など、昔から言われる慣習や言い伝えの中には、科学的に正しくないことも多々あります。昔と今の育児の違いなどもお伝えしていきたいです」

取材・文/根岸寛子(北海道新聞記者)

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