育休給付延長のため 保育所「落選狙い」 批判に戸惑う保護者

写真はイメージ(shimi/ PIXTA)

来春から手続き厳格化

厚生労働省は来年4月から、育児休業給付を延長する目的で人気の保育所に申し込む「落選狙い」を防ぐため、延長手続きを厳格化します。自治体の業務負担を軽減することが目的ですが、現行の制度では原則1歳までの給付期間を延長するには落選するしか手がありません。「mamatalk(ママトーク)」でアンケートを実施したところ、母親たちから、落選狙いを批判されることへの戸惑いや制度自体を問題視する意見が寄せられました。

育児休業給付の延長申請の流れ

mamatalkアンケート「制度が問題」77%

アンケートは5~6月に行い、108人(女性102人、男性6人)から回答がありました。落選狙いについてどう思うか、複数回答で尋ねたところ、「落選をしなければ延長できない制度が問題」との回答が77%で最多、批判的な意見では「落選狙いは迷惑だ」が14%でした。延長手続きの厳格化については、「反対」と「どちらかといえば反対」を合わせた反対派が37%で、「賛成」と「どちらかといえば賛成」の賛成派の31%をやや上回りました。「どちらともいえない」は32%でした。

反対する理由(自由記述)では、子どもが1歳での職場復帰を早いと感じることや復帰後の育児負担の重さ、年度途中の保育所の空きが少ない事情を挙げる意見が目立ちました。落選狙いをしたことがある恵庭市の30代女性は「生まれた月によって入園のしやすさも異なる。1.5~2歳などと幅を設けるべきだ」と訴えました。

育児休業制度、給付延長手続きの厳格化に対する意見

1歳すぐの復帰は早い/落選しなくても延長できれば

取材に応じた2歳の子どもを保育所に預ける札幌市の20代女性は「1歳になってすぐは幼く、保育所に預けるのは不安だった。厳格化するなら、すぐに預けたくない母親にも寄り添ってほしい」と要望しました。千歳市の30代女性は「落選しなくても2歳まで休めることを選べたらいい」と話します。第2子の育休を延長し「歩き始める過程をそばで見ることができた。上の子と過ごす時間も増え、育休を延長できて良かったです」。

落選狙いは違法ではないものの、待機児童対策としてつくられた延長制度の趣旨には反しています。人気の保育所に申し込みが殺到し本当に入りたい人が入れなかったり、自治体に問い合わせが殺到したりする事態が近年、表面化していました。一方で、自治体側が落ちやすい施設を紹介するなど半ば容認されてきた面もあります。札幌市保育推進課は「申し込む保護者はいる」とし、道内でも待機児童が発生する都市部などで落選狙いが行われているとみられます。

国「制度の適切な運用図る」

厳格化に至ったのは、札幌を含む政令指定都市20市でつくる指定都市市長会などが昨年、国に対し落選狙いに対応する事務負担の軽減を提案したことがきっかけでした。同会などは、負担軽減の方策として、「延長制度を撤廃し2歳までの間(給付金の)支給を可能とする」「保育所などを利用していない旨の証明により延長する」など制度の見直しを提案していました。札幌市は「自治体の負担を軽減し、子育てもしやすくなると思って賛同した」と話します。

ですが結果として、この提案は採用されず、手続きの厳格化が決まりました。厚労省は「提案の実現は難しく、制度の適切な運用と事務負担の軽減を図った」と説明しています。

制度見直しの必要性 専門家が指摘

専門家は、制度そのものの見直しの必要性を指摘しています。旭川市立大学短期大学部の佐々木千夏教授(教育社会学)は「これまで保育所に早く預けたい人に脚光が当たってきたが、長く子どものそばにいたい人もいる。制度が子育ての当事者に寄り添っていない」と強調します。3歳ごろまで発達は個人差が大きく「理想は復帰の時期を好きに選択できること」と話しました。

京都産業大学の高畠淳子教授(労働法、社会保障法)は、育休制度が子育て支援ではなく、雇用政策であることを課題に挙げています。「働き続けるための休業と給付金という位置づけで始まり、子どもを育てるという視点は入ってない」と指摘しました。海外では税金を財源とした給付が一般的という。「制度そのものを見直さないと少子化対策にもつながらない」と話します。

取材・文/石橋治佳(北海道新聞記者)

育児休業給付

原則1歳の誕生日まで雇用保険から支給される。雇用保険法に基づき、最大で休業前賃金の67%を受け取れる。認可の保育所などに入れない場合は、最大2歳まで延長できる。延長するには、入所を申し込んで落選した旨を示す、自治体が発行する「通知」が必要となる。来年4月からは落選した保育所を希望した理由などを書く「申告書」も提出し、公共職業安定所(ハローワーク)が内容を確認して延長について判断する。

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