広がる「旅育」 自立心養い、成功体験が日常の自信に

ノーザンホースパークで馬に触れる親子

親子向けバスツアーに参加

「旅先で何をしようか」―。旅を通じて子どもの成長を促す「旅育(たびいく)」が広がっています。小学1~4年生の親子を対象に旅育に挑戦する、札幌発着の日帰りバスツアー(北海道観光振興機構主催)が、11月の3日間、各コースで開催されました。記者(43)も長男(8)と一緒に体験取材し、貴重な学びの時間を過ごしました。

声掛けを我慢 挑戦を見守る

昨年までは講座だけでしたが、今年は北海道ボールパークFビレッジ(北広島市)や牧場、チョコレート工場などを巡る三つのツアーを企画。約50組が参加しました。親子で一緒に旅の計画を立て実行することで子どもの自立心や行動力を養う「旅育」を提唱する、旅行ジャーナリスト村田和子さん(54)=兵庫県在住=が、講師として同行。記者親子は「動物たちとふれあい体験コース」に参加しました。

最初の目的地、サケのふるさと千歳水族館(千歳市)では、子どもたちが4人ほどのチームを作り、飼育員によるバックヤードツアーに出発しました。自主性を育てるため、保護者は声掛けを控えるよう村田さんから注意があり、保護者が後ろをついて行きました。

サケのふるさと千歳水族館の大水槽の上で飼育員(左)の説明を聞く子どもたち

大水槽の上の金網を歩く子どもたち。「身を乗り出して落ちないでよ」と言いそうになるのをこらえ、小声でつぶやく保護者に目もくれず、子どもたちは興味津々。「魚は何種類いるの?」「死んだ魚はどうするの?」と飼育員に質問を浴びせていました。長男も「水槽ってこんなに水があるんだ」と驚きの表情。普段は真横から見る水槽の、思いがけない視点に興奮気味でした。

自分で行動計画 達成感得られる

引退した競走馬などと触れ合える観光牧場ノーザンホースパーク(苫小牧市)は自由行動でした。広大な敷地のどこへ行けば目的の体験ができるのか。不安な表情を浮かべながらも、子どもたちは保護者の手を引いて思い思いの場所に散っていきました。

ツアーに先立ち子どもたちには「当日朝何時に起きるか」「自由行動で何をするか」などを記入する「旅のしおり」が配られました。計画を立てることに疲れ作業をやめたがる長男でしたが、牧場での予定としてアーチェリーや引き馬などと書き込みました。当日長男は、緊張しながらも目的地を従業員に尋ねることができました。

旅のしおり。自由時間にやりたいことを三つ挙げ、回る順番を考える

旅育の意義について村田さんは、事前の保護者向けオンラインセミナーで「旅は世の中の広さ、多様性を体感で学べます」とし、子ども自身が決めたことを、時間がかかっても大変な思いをしても、乗り越える体験が生きる力になると話しました。「『親が教えてあげなきゃ』ではなく、『旅仲間』として支え見守って」とも指摘していました。

近場でも良し 何をするかが重要

他の子どもたちも、成長ぶりを見せていました。「一緒に自転車に乗ろう」。ツアー仲間に声を掛けていたのは札幌市南区の斎藤愛佳さん(6)。母の陽子さん(37)は「バスの中では気後れして自己紹介できなかったけれど、旅の中でどんどん積極的になっていきました」と驚きます。西区の天野梨花さん(7)は「馬にニンジンをあげられた。一番楽しみだった」。母の仁美さん(50)は「学んでいた分、お出掛けにただ連れて行くよりワクワクしていました」と話しました。

旅育では、親もやりたいことを楽しむのがポイント。豊平区の伊賀裕章さん(39)は「娘とサイクリングができました。いつもは子どもと妻のやりたいことを一緒に楽しむけれど、今日は自分の夢もかなえられました」と満足げ。「馬に乗れてうれしいです」と話す娘のあかりさん(8)と笑い合っていました。

村田さんは、それぞれのツアーを終えて「子どもの成長を感じ新たな一面を発見したという声がうれしいです。初めての体験、初めて会う人との交流はとても勇気がいること。旅の中で乗り越え、成功体験を積むことが日常への自信につながります。旅育はどこへ行くかより、何をするか。近場でもできるので、親子で旅を楽しんでほしいです」と話していました。

取材・文/山田芳祥子(北海道新聞記者)

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