木下大サーカス 息のむ妙技、スリル満点 7月8日から札幌公演 筋肉美や動物の曲芸注目

鼻先でつかんだ帽子を子供の観客にかぶせるゾウ=5月21日、新潟市内の公演会場

鼻先でつかんだ帽子を子供の観客にかぶせるゾウ=5月21日、新潟市内の公演会場

「木下大サーカス」の6年ぶり4度目の札幌公演(北海道新聞社主催)が7月8日、札幌市豊平区の旧月寒グリーンドーム跡地特設会場で開幕する。10月15日まで。2時間余りのショーは一部を入れ替えながら約20の演目を行う。パフォーマー(演技者)が繰り出すアクロバットなど多彩な技に笑いを誘う場面も織り交ぜ、幅広い年代が楽しめる構成。絶妙の演技と音響・照明などの演出が一体となって生み出すスリル満点の世界だ。

5月下旬。新潟県スポーツ公園の特設会場を訪ねた。同サーカスが全国巡回する札幌の直前開催地だ。

「うぉーっ」。歓声と拍手が沸いた。細い鉄パイプに載せた木製ブロック上で倒立する「ハンドスタンディングアクト」が成功した瞬間だ。2019年から加えた演目で、札幌でも初公開される。

2本の鉄パイプは直径3センチ、長さ60センチ。その上に厚さ6センチの手のひらサイズの木製ブロックを左右に8個ずつ載せた。腕や背中、腹部の筋肉美が客の目を引く演技者はバランスを取り、体操競技のようにぴたりと静止する。サーカス一家の9代目でフランス人のスタイカン・アンドレさん(27)は「重心を移動させることで体をコントロールしているんです」と話す。

ぐらつきを抑えて倒立するハンドスタンディングアクト=5月21日、新潟市内の公演会場

ぐらつきを抑えて倒立するハンドスタンディングアクト=5月21日、新潟市内の公演会場

男女3人がローラースケートでさまざまな回転技を繰り広げる演目も札幌初登場。英国人のマイケル・ハウズ・ジュニアさん(23)は「力の入れ方を工夫して回転しているところを見てほしい」。父は動物調教師のマイケル・ハウズさん(53)。ホワイトライオンやポニーと息の合った演技を見せた。その秘訣(ひけつ)を聞くと、「どれだけ時間をかけて動物たちの世話をするかということですね」。

おなじみの空中ブランコでは、13メートルの高さにある複数のブランコを使い、8人の飛び手と2人の受け手が、時にはひやりとさせながら多彩な技を見せた。

鍛え上げられた演技者同士が息の合った技を見せた空中ブランコ=5月21日、新潟市内の公演会場

鍛え上げられた演技者同士が息の合った技を見せた空中ブランコ=5月21日、新潟市内の公演会場

数々の演技の最中には失敗もある。すると、客席から「頑張れ」の声援が飛び交う。舞台音響照明上席主幹の中尾展久さん(42)は「演技者とお客が一体感を持てるメリハリの効いた演出を心掛けています」。

家族4人で観覧した新潟市の主婦間瀬千紘さん(27)は「見たのは中学生の時以来。迫力が増した感じがします。初めて見た子供たちは動物の曲芸が気に入ったようです」。友人と来た同市の会社員椎谷直人さん(30)は「命綱をつけない空中大車輪を見て、手に汗がにじんだ。やり直せない生のステージから勇気をもらいました」と笑顔を見せた。

フィナーレで演技者に手を振る観客=5月21日、新潟市内の公演会場

フィナーレで演技者に手を振る観客=5月21日、新潟市内の公演会場

木下大サーカスを運営する「木下サーカス」(岡山市)は、木下唯志社長(73)の祖父唯助氏が1902年(明治35年)に旗揚げした。昨年はコロナ禍の中、4公演で約100万人が来場した。札幌公演はこれまで23年(大正12年)、2012年、17年に行われている。

空中ブランコ 1秒の滞空、絆で磨く 中園さんと早田さん

入社8年目の早田神龍(わさだじんりゅう)さん(25)と31年目の中園栄一郎さん(50)は、空中ブランコの飛び手と受け手だ。「高さのあるダイナミックな演技が醍醐味(だいごみ)」と、滞空時間1秒の技を磨く。

公演後に笑顔を見せる中園さん(左)と早田さん=5月20日、新潟市

公演後に笑顔を見せる中園さん(左)と早田さん=5月20日、新潟市

早田さんは2017年の札幌公演時はオープニングのアクロバットの一員。そのころに練習を始めた空中ブランコを今回、札幌で披露する。「空中を飛びながら、瞬時に自分の体を締めたり緩めたりして理想的なジャンプになるように意識しています」 宮崎県出身。新体操でインターハイに出場した経験もあり、空中で自分の体を自在に動かすことは得意だった。しかし、ブランコ上での演技は揺れに合わせるタイミングが重要なため、失敗が続いたという。

「体の使い方がうまくいかずに何度も落下を経験しました。でも、挑戦を続けることで技術が高まり、メンタル面も強くなりました」。受け手が見えない状態で飛ぶ難度の高い「紙破り飛行」を担当する。

体操競技でインターハイや国体に出場した中園さんは、サーカスを見て「やりたい仕事に出合った」と、19歳で入社。飛び手として活躍した後、経験を生かして受け手となり、飛び手の指導もする。

「受け手は、飛び手のジャンプの微妙なずれを軌道修正する役目」と、飛び手たちのくせや傾向を頭に入れる。安定した受け手として飛び手の信頼は厚い。「サーカスは全員が一つのチーム」と力を込める。

限界に挑戦 勇気届けたい 木下社長

木下唯志社長に、札幌公演の見どころを聞いた。

札幌公演の見どころを語る木下唯志社長=5月16日、札幌市内(植村佳弘撮影)

札幌公演の見どころを語る木下唯志社長=5月16日、札幌市内(植村佳弘撮影)

サーカス一家に育ち、鍛えられたハンサムなアーティストが演じる「ハンドスタンディングアクト」に注目してほしい。欧州のショーで初めて見てスカウトしました。肉体の極限に迫る優美で力強い技は、世界トップ級。サーカスと舞台芸術の融合です。

2017年の札幌公演から6年たち、演技内容や音響・照明、衣装、構成のいずれもがレベルアップしました。サーカスを初めて見る人も、見たことがある人にも、夢と感動を与えたい。

2千人を収容する高さ18メートルの赤テント内は、大型エアコン8台と業務用換気扇34台で常時換気しているので快適です。

多彩な演目で構成するサーカスは、さまざまな世代が一緒に楽しめる「ファミリー・エンターテインメント」。初回の札幌公演から100年となる今回、限界に挑む演技で北海道の人たちに挑戦する勇気を届けられたらと思っています。

自由席入場料は前売りで大人3千円(当日3500円)、大学・専門学生2400円(同2800円)、子ども(3歳~高校生)2千円(同2500円)。指定席は入場料に1500~3500円の追加料金が必要。道新プレイガイドやコンビニエンスストアで販売している。

駐車場は収容台数に限りがあり、公共交通機関の利用が望ましい。札幌市営地下鉄の場合、東豊線福住駅で下車し、2番出口から徒歩約10分。飲食物の持ち込みはできない。カメラ、ビデオ、スマートフォンなどでの撮影禁止。

問い合わせは札幌公演事務局、電話011・233・0018(7月2日まで)、011・854・0009(7月3日から)へ。

取材・文/森田彰(北海道新聞編集委員)、写真/野沢俊介(北海道新聞写真映像部)

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