ベビーカー利用で困った経験「あり」9割 地下鉄乗れず5本見送り エレベーターは満員

公共交通機関利用時に肩身が狭い思いがした、エレベーターが利用しづらい…。SNSでは、ベビーカー利用時のトラブルや困りごとが度々、話題になっています。北海道新聞「みなぶん特報班」と「mamatalk」が合同で、ウェブ上でアンケートを行ったところ、かつて利用していた人を含め、90.3%が、ベビーカー利用時に困ったことがあると回答しました。利用者が困っているところを見たことがある人も半数を超え、ベビーカーの利用を巡り、悩んでいる人が多くいることをうかがわせました。

アンケートはみなぶん特報班の公式LINEのフォロワー(通信員)およびmamatalk読者を対象に4月下旬~5月初旬に行い、20代~70代の185人から回答が寄せられました。本アンケートは、通信員とmamatalk読者から多様な意見を聞く目的で行っており、無作為抽出で行う世論調査とは異なります。

ベビーカーを利用しているか聞いたところ、「現在利用している」が53.5%、「過去に利用していた」が41.1%、「利用したことはない」が5.4%でした。

ベビーカーを利用して外出して困った経験について聞くと、「困った経験がある」との回答が全体の90.3%にのぼり、最多でした。次いで、「困った経験はない」が5.4%、「わからない」が4.3%でした。

バスや電車など公共交通機関や、飲食店などでベビーカーを利用している人が困っているところを見かけたことはあるかという問いには、「見かけたことがある」が60.0%、「見かけたことはない」が29.7%、「わからない」が10.3%でした。

車両内に利用スペースはあるけれど…

困ったことがある人にどのような場面で困ったのか聞いたところ、切実な声が多く寄せられました。

特に目立ったのが公共交通機関利用時の困りごとです。

札幌市営地下鉄の車両内には、車いすやベビーカーの利用が可能なスペースがあります。車いすやベビーカーのマークの表示がありますが、札幌市豊平区のパート従業員の室村つかささん(27)は、このスペースについて「人がいて乗れなくて、5本見送ったことがあります」と回答しました。乗客の中には、室村さんが乗ることをあきらめたことに気付いた様子の人もいたそうです。「このスペースについてもっと知ってほしいし、理解してほしいです」と求めました。

乗り込めずに、何本か見送った経験があるという声は他にもありました。

札幌市中央区の主婦(32)は「地下鉄でうまく乗れなくて、3回も見送りました。(軌道上に)おもちゃを落としてしまい駅員さんを呼んだこともあります」と振り返ります。自分一人で何とかしようとしながら「人って冷たいんだなー」と泣けてきたそうです。

「冷たい目線が怖い」

周囲の目線が気になるという声も目立ちました。

石狩管内当別町のパート従業員の女性(34)は「JRやバスの乗り降りは毎回大変。札幌駅のように乗る人が長蛇の列で待っている所を、ベビーカーの私が降りると時間がかかるので、迷惑をかけていると思ってしまいます」と回答。4歳の子を筆頭に3人の子どもがいますが、「3人では絶対に公共交通機関は利用できない」と言います。

札幌市白石区の女性会社員(30)は「手伝ってもらえて当たり前なんて思っていませんが、電車の乗降に時間がかかっている時などの周囲の冷たい目線が怖い」。かつてベビーカーを利用していた釧路市の主婦(36)は「バス利用時には、乗り降りする際にとても気が張りました」と振り返ります。「子どもと荷物を抱えたまま、ベビーカーをたたんだり開いたりしなければいけない上、急がなければいけなかった」ためです。

スーパーや飲食店でも

日々の買い物で利用するスーパーや飲食店などでの経験も多く寄せられました。

札幌市南区の女性会社員(36)は「エレベーターに、ベビーカー優先と書いていても、待てど暮らせど満員で譲ってもらえず、途方に暮れたことがある」と回答しました。

エレベーター利用時に関する意見も多く寄せられた

エレベーター利用時に関する意見も多く寄せられた

ベビーカーを利用することで、不便なことに初めて気付いたという声もありました。後志管内真狩村の男性(34)は「自動ドアではないお店の入り口。ベビーカーで利用して初めて不自由さに気づくことが多いです。飲食店もベビーカー専用席などあるとうれしいのにと思います」。旭川市の主婦(46)は「スーパーの入り口は広くて入りやすくても、店内は客がいて狭くなっており、ベビーカーを押していると嫌な顔をされた」と振り返ります。札幌市中央区の主婦(34)は「入口に段差があることが多く、入店を諦めることも多いです。コンビニに寄りたくても、スロープがないと諦めることが多々あります」と答えました。

周囲の心遣いがあれば

札幌市中央区で3人の子を育てる主婦柿崎陽子さん(33)に会って話を聞きました。自家用車は利用しておらず、外出時にはバスや地下鉄、JRを利用します。でも、特にバスでは「ベビーカーで乗車すると、スペースに限りがある中、周りに迷惑にならないか気になる。乗り降りの時、たたむ必要があると大変だし、子供が泣いてしまうと、他の利用者にとって騒音にならないかも心配」などと考え、「できるだけ乗らないようにしている」と言います。

札幌市豊平区の主婦山中里美さん(45)は「ベビーカーに対して『邪魔くさい』『狭くなる』といった心のバリアーがある」と感じていると聞かせてくれました。「だれかにあったかい心遣いをされると、きっとまた次にもあったかい心遣いができると思う」と考え、ベビーカーで外出している人に対して、自ら積極的に声をかけるようにしているそうです。

暗黙のルールが妨げに

今回のアンケートで、バスなどの車内で「暗黙のルールで『ベビーカーはたたむ』となっているのが大変」(札幌市西区のパート従業員女性)といった声がありました。

電車やバスに乗る時は、原則としてベビーカーは折りたたまずに利用できます。

札幌市交通局が大通駅構内に掲示しているポスター。乗客に対して、電車やバスでは原則としてベビーカーを折りたたまずに利用できることを案内し、ベビーカーの利用者に「温かい気持ちで接し、見守りましょう」などと書かれている

札幌市交通局が大通駅構内に掲示しているポスター。乗客に対して、電車やバスでは原則としてベビーカーを折りたたまずに利用できることを案内し、ベビーカーの利用者に「温かい気持ちで接し、見守りましょう」などと書かれている

国土交通省と、各公共交通機関などが連携して毎年5月に、ベビーカーを利用しやすい環境づくりを進めるキャンペーンを行っています。札幌市営地下鉄では、今年の期間中は全駅にポスターを掲示して「電車やバスでは、ベビーカーは、折りたたまずに乗車することができます」などと表示し、乗客に理解を求めています。

札幌市交通局の担当者は「乗降時に、係員に介助が必要などと申し出があれば、できる限り対応します」としています。

折りたたむ必要なし

JR北海道でも、特急など一部列車を除き、原則として乗車時に折りたたむ必要はないとしています。「列車は、乗客の乗降完了を待ってドアを閉めるので、焦らずゆっくりと乗降してほしい」と呼び掛けます。乗降時に不安がある時は「駅係員、車掌に申告あれば、できる限り手伝う」としています。

バス会社5社が共同で車内に掲示しているステッカー

バス会社5社が共同で車内に掲示しているステッカー

ジェイ・アール北海道バス(札幌)、じょうてつ(同)、北海道中央バス(小樽)、空知中央バス(滝川)、ニセコバス(後志管内ニセコ町)の北海道内のバス会社5社は2021年4月から、合同でベビーカー利用者に対する呼び掛けを行っています。5社によると、ベビーカーのマークのある座席では、子どもをベビーカーに乗せたまま利用できます。ベビーカーが動かないようにベルトで固定します。その他の座席では、ベビーカーを折りたたんで、子どもを膝の上に載せて乗車するよう呼び掛けています。

地域全体で支える

オホーツク管内斜里町の主婦(34)はアンケートで「ベビーカーは、子どもが寝てしまっても用事を済ますことができるなくてはならないもの」とした上で「公共交通機関利用時に、肩身が狭く感じるのが嫌で、外出機会が減ると、育児も孤立してしまったり、精神的に追い詰められたりすることにつながってしまう。現状より、もう少しベビーカー利用者が乗車しやすくなればと願っています」と回答しました。

アンケートでは、公共交通機関で「高齢者が席を譲ってくれた」「列車から降りる時、男性が手伝ってくれた」など、周囲の人に助けられた経験に触れた回答もありました。

札幌市のNPO法人「子育て応援かざぐるま」で代表理事を務める山田智子さん(63)によると、運営する子育て支援拠点の利用者からも、ベビーカー利用時に「周りの目が気になる」などといった声を聞くことがしばしばあるそうです。山田さんは「ベビーカーの利用者が困っている様子を見かけたら、声をかけてあげてほしい。地域ぐるみで子育て世代を支えられれば、もっと子育てしやすい社会になるのではないか」と話しています。

取材・文/藤田夏子(北海道新聞記者)

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