将来の妊娠に備える卵子凍結、道内でも希望者増 専門家に聞くメリットと課題

写真はイメージ(jessie / PIXTA)

健康な女性が将来の妊娠のために未受精卵子を凍結する「卵子凍結」。東京都が昨秋から費用の助成を始め、人気タレントが実施したとの報道もあり、関心が高まっています。卵子凍結にはどのような利点と課題があるのか、専門家に聞きました。

不妊治療が専門の「神谷レディースクリニック」(札幌市中央区)では、これまで卵子凍結の実施は年間数件でした。2023年秋から問い合わせが増え、毎月4~5人が希望しています。同院の診療部長で生殖医療専門医の岩見菜々子さんは「今すぐではなく、将来パートナーができた際により若い卵子で妊娠できるよう備えたいという35~40歳の女性が増えている」と話しています。

岩見菜々子さん

岩見菜々子さん

卵子凍結では、卵巣から取り出した卵子を液体窒素で凍結させ、妊娠を希望するタイミングまで保存します。がんなどの治療をする患者が、将来の妊娠の可能性を残すために行う「医学的適応」と、健康な女性が将来の妊娠に備え卵子を保存する「社会的適応」(ノンメディカルな卵子凍結)があります。女性たちの関心を集めているのが社会的適応です。日本生殖医学会が2013年にガイドラインを示しました。

メリット 若い時の生殖能力保存

卵子凍結のメリットとして、岩見さんは「加齢による時間変化を止められる」と指摘します。精子と違い、卵子は新しく作られることがありません。出生時に約100万~200万個ある卵子の元となる卵母細胞は、思春期には約5分の1に減り、年齢を重ねると量と質が低下します。「若い時の生殖能力が残っていることで安心感を得られ、仕事やパートナー探しに集中しやすくなるとして、希望する人が多い」(岩見さん)

課題 30万~50万円と費用高額

一方、卵子凍結には課題も多いです。不妊治療が専門で卵子凍結も実施する「さっぽろARTクリニックn24」(札幌市北区)の院長、藤本尚さんは「デメリットを理解し、自身の人生設計を具体的にシミュレーションした上で検討することが必要」と強調します。

藤本尚さん

藤本尚さん

まず、自費診療のため費用が高額になります。医療機関により異なるが、排卵誘発から凍結まで30万~50万円程度かかるのに加え、保管のため毎年の更新費用も必要です。採卵数を増やすため連日の排卵誘発剤の注射により、身体への負担もあります。

岩見さんも「卵子凍結をしても実際に妊娠・出産できる保証はない」と話しています。卵子は、染色体の性質上、解凍する際に細胞の組織が壊れやすいのです。死産や流産になる場合もあり、海外の報告では、一つの卵子を凍結させ、出産に至る確率は4.5~12%でした。

35歳以上の出産は妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病を発症しやすく、胎児や母体双方にリスクがあります。岩見さんは、「卵子凍結により『まだ大丈夫』と安心し、出産時期を遅らせることは望ましくない」と話しています。

日本産科婦人科学会は昨年6月、ホームページで「推奨も否定もしない」との立場を示し、「多くの女性がノンメディカルな卵子凍結について心配しないで済む社会環境が実現することを切望しています」としました。同学会が作成した、卵子凍結の特徴を解説する動画はオンラインで閲覧できます。

ノンメディカルな卵子凍結への助成は、東京都のほか山梨県では本年度中に実施する予定です。北海道は助成しておらず、道子ども政策企画課は「道内市町村での実施も把握していない」としています。

取材・文/有田麻子(北海道新聞記者)

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