ママ自身を大切にしてほしい 産後ケアホテルの助産師荒木美里さん=札幌市中央区

預かった赤ちゃんを抱きながら、産後ケアホテルのやりがいを話す助産師の荒木さん(いずれも大石祐希撮影)
「双子は授乳のタイミングがバラバラになると大変ですよね。片方が寝ていても起こして、ミルクをあげていいと思います」。生後6カ月の双子の母親が語った悩みに共感しながら、助言した。24時間の乳児預かりや育児相談などの「産後ケアホテル」サービスを札幌市内のホテルで行う、「Cocokara(ココカラ)」の助産師荒木美里さん(38)。自身も、双子を含む小学生3人の母だ。「2人の赤ちゃんを同時に育てることの大変さや、気持ちがすごくわかる」と話す。

赤ちゃんを預ける依頼者(手前)の不安や疑問を丁寧に聞き取る荒木美里さん=札幌市中央区・京王プラザホテル
ママに癒やし 心身をサポート
産後間もない母親は、昼夜問わない授乳のため睡眠不足になりがち。さまざまな不安に直面する中、育児全般の助言も求めている。「産後ケアホテル」はそんな母親に、赤ちゃんと一緒に泊まってもらい、助産師が24時間体制で支援。赤ちゃんを一時的に預かって母親1人でゆっくり休んでもらったり、さまざまな相談を受けたり。母親が抱きがちな孤独感を癒やし「産後うつ」を防ぐなど、心のサポートにも務める。「ママが自身を大切にできる場です」
15年間勤めた市立札幌病院の助産師からの転身。高橋奈美社長(31)と二人三脚で、資金ゼロから開業に奮闘した。一般のホテルを間借りして、不定期にサービスを始めて1年あまり。場所をJR札幌駅前の京王プラザホテル札幌に固定した本格開業に11月、こぎ着けた。
現在は各2泊3日で月4回程度実施。協力する助産師は、当初の4人から約10人に増えた。

預かった双子の赤ちゃんの世話をする荒木さん
母親たちから厚い信頼
母親は助産師からの言葉に大きな信頼を寄せていると感じる。だからこそ、慎重に言葉をかける。助産師が代わった時に「言っていることが違う」と母親が戸惑わないよう気を配る。「話し合いながら、よりよいケアにつなげたい。いろいろな知識をすりあわせている」

預かった赤ちゃんにミルクを飲ませる荒木さん
生命の誕生の現場に立ち会いたいと助産師を志し、2008年に就職。2度の育児休業をへて職場復帰してからは、産後2週間健診や母乳外来を担当することが増えた。
毎回、それぞれの母親と1時間ほど向き合う。ずっと泣いていたり、表情が暗かったり、夫の愚痴が止まらなかったりと、疲れ切った母親ばかり。「自分も経験していたけど、産後のママはこんなにも大変な思いをしていると、初めて気づいた」
話し合い1時間 表情明るく

利用者の母親(左)の悩みや不安を丁寧に聞き取る荒木さん
だがじっくり話を聞くと、帰る頃には母親たちの表情が明るくなっていた。「たった1時間で変わる。退院した後のママにも、助産師が必要だと思った」。出産して間もない母親の心身を支える、産後ケアの重要性を痛感した。
2年前、交流サイトを通じて高橋社長に出会った。高橋社長も、産後にうつ状態を経験していた。「北海道に産後ケアホテルは絶対必要。ないなら作るしかない」と言われ「行動力のある奈美さんとならできると思った」と振り返る。産後ケアの中でも行政が実施する既存のものは、日帰りか、助産師が自宅を訪問するタイプが中心で、宿泊型は少ない。寝不足で悩む人が多く、泊まってゆっくり寝て、リラックスした時間が過ごせるような産後ケアを、実現させたかった。
罪悪感克服 「休む大切さ」痛感
荒木さんの一番の楽しみは、チェックアウトの時に「また育児を頑張ろうと思った」などと話す母親たちの笑顔を見ることだ。母親自身が休むことに罪悪感があったり、休む大切さに気がついていなかったりすることは多い。「自分を大切にする必要があると感じた」という言葉を聞くと、特にうれしくなる。
ケアホテルで産後うつを減らしたいという思いも強い。「一番の原因は孤立。相談できる場やつながりを作ることが大切」と、宿泊後もラインで相談に応じている。母子だけでなく家族でも宿泊でき、家族での利用者には育児休業中の父親も。「パパも疲れていたり、いろんなことに悩んでいる」と、父親からの相談も受ける。
1日4組の定員を拡大していくことが目標。産後ケアが当たり前になる世の中を実現させることが夢だ。「出産したらどこの産後ケアを利用するのか―と話すのが当たり前になればいい」。産後ケアの浸透を願い、まい進する。
<略歴>
あらき・みさと 1986年、札幌市生まれ。北海道立衛生学院助産学科卒業後、市立札幌病院で15年勤め、2023年3月に退職。高橋奈美さんと「ココカラ」を作り、同年11月からホテルで宿泊型の産後ケアを提供する「産後ケアホテル」を札幌で試行的に始めた。法人化し、今年11月に京王プラザホテル札幌で常設開業した。
取材・文/石橋治佳 (北海道新聞記者)
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