札幌の保育園急増 異業種参入に行政監視の甘さ 大量退職・休園相次ぐ

中和興産が運営していた「ちゅうわ発寒保育園」。保育士の大量退職などの問題が発覚し、休園となった
「中和興産」(札幌)が運営する札幌市内の保育園で保育士が大量退職し、相次いで休園した問題で、現場の保育士が市に対して園の不適切な運営を訴えていたほか、監査で問題が発覚しても市は改善につなげられなかった。「待機児童ゼロ」に向けた国の規制緩和で異業種からの参入が急増する保育園。行政のチェック体制の甘さが浮き彫りになった。
性善説
「これまでは性善説に立っていた」。秋元克広市長は11月下旬の定例記者会見で保育園への監査が機能していなかったことを認め、抜き打ち検査など監視を強化する方針を明らかにした。
中和は市内で認可4、認可外1の計5保育園を運営。今年5月、南区の認可保育園で必要な数の保育士がいないのに子どもを預かっていたことが発覚、市から児童福祉法に基づく事業停止命令を受けた。残る4施設も保育士が一斉退職し休園した。すべての園は認可取り消しなどとなり、子どもは転園した。
同園関係者によると、保育士不足だけでなく、職員への給与未払い、光熱費や給食事業者への支払いも滞っていた。21年ごろから現場の保育士や保護者が問題視し、市に再三訴えた。ところが、こうした「通報」を市は事実上放置。30代の女性保育士は「市が現場の声を無視した。問題が表面化する前に市に訴えたのに、なにも対応してもらえなかった」と憤る。
保育園への監査体制も甘かった。年に最低1回の訪問監査が原則義務づけられているが、市は新型コロナの感染拡大を理由に、20、21年度は一度も行わなかった。中和に対する22年度監査では必要な職員配置や給与などに関する書類が園側から提出されなかったが、指導や勧告を繰り返したものの改善されなかった。
実在しない保育士の氏名が書き込まれた書類もあったといい、市私立保育連盟の菊地秀一会長は「監査が機能していない。もっと踏み込んで対応すべきだった」と市の姿勢に苦言を呈する。
中和は認可保育園で職員数を水増しして申請するなどして約6600万円を不正に受給。市は運営補助金約3600万円とともに計約1億円の返還を求めているが、いまだ実現していない。
規制緩和
国は2000年、市町村や社会福祉法人だけでなく、企業やNPO法人も保育所を設置できるよう規制緩和した。中和も18年設立の株式会社だ。市内の保育施設は今年4月末現在で559カ所。20年4月に比べ64カ所増えた。
だが、監査を担う職員は約20人で大幅増員はしておらず、市内部からでさえ「人手は十分とは言えない」との声が漏れる。
加えて、国は23年度から、保育園に直接出向いての監査について、書面やリモートなども可能とした。チェックの重要性が増すなか、「保育の質」をいかに確保するかが課題になっている。
独協大の和田一郎教授(社会福祉政策)は、道外の自治体で1人の職員が年間に100園もの監査を担当している例もあるとし、「担当職員はどこも足りない。子どもの安全安心のため、保育士や保護者からの声に対応する仕組み作りが必要だ」と指摘する。
取材・文/田中華蓮(北海道新聞記者)
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