無痛分娩に不安の声 局所麻酔薬「アナペイン」が不足 北海道内にも影響

無痛分娩で欠かせないアナペインを手に安定供給を訴える「はだ産婦人科クリニック」理事長の羽田さん=10月8日
出産前後や手術の痛みを和らげる局所麻酔薬が全国的に不足し、北海道内でも無痛分(ぶん)娩(べん)を希望する出産間近の女性から不安の声が上がっている。メーカー側で出荷が遅れているためで、国は安定供給を要請しているが、早期解消の見通しは立っていない。医療機関側は薬品を希釈したり、別の麻酔薬を使ったりして、しのいでいる状況だ。
出産が不安
来年6月、夫の実家がある札幌市で第2子の里帰り出産を予定する千葉県の女性(33)は「無痛分娩ができないのは考えられない」と話す。長男(1)の出産時と同様、無痛分娩対応の病院を見つけたが、アナペイン不足を知り、「出産の時までに間に合うかしら」と心配する。
11月中旬に出産予定の札幌市の30代女性は「自然分娩で痛みに耐えられなかったら無痛分娩へ切り替える予定」と話すが、不安を隠せない。
アナペインは胎児や母体への副作用が少なく、麻酔の効果が他の局所麻酔薬よりも長い。無痛分娩や歯科、がん治療などでも使われている。
安定供給の見通したたず
国内での製造・販売はサンドグループ(東京)のみ。同社は4月に製造工場を国内に移転する準備中に不具合が生じたとして、6月から海外で生産していた分の出荷を調整している。10月上旬に国内で製造が可能となったが、通常の出荷量に戻る時期は不明という。医療関係者は「設備の不具合と聞いている」と明かす。代替薬品も需要に追い付かず、出荷調整に至っているという。

出荷が滞っている状態が続く局所麻酔薬のアナペイン
この事態を受け、日本麻酔科学会は医療機関に、帝王切開など全身麻酔を回避するべき理由がある手術を優先してアナペインを使うことや、使用量の削減、他の鎮痛方法の検討のほか、必要以上の量を購入しないよう提言。厚生労働省も都道府県に出した事務連絡で、アナペインの適正な使用と発注の協力を呼び掛けている。
病院も対応に苦慮
病院も対応に追われている。昨年約500件の無痛分娩を行った札幌市手稲区の「はだ産婦人科クリニック」理事長の羽田健一さん(51)は「9月から毎月のアナペインの入荷数が20箱から12箱程度に減り、希釈して対応している」と話す。
北大病院(札幌市北区)も8月から使用を制限。従来は1人1本(20ミリリットル)を割り当てていたが、薬品を希釈したり、廃棄していた余りを使ったりして3人分に増やしている。現時点で手術への影響はないが、麻酔科診療講師の藤田憲明さん(49)は「重要な薬は国の責任で確保できるようにして」と要望する。
厚労省は8月にアナペインの後発品を承認し、年内の供給開始が見込まれているとするが、現時点ではアナペインの不足分を補うだけの十分な量をまかなえない状況だ。天使病院(札幌市東区)麻酔科主任科長の石川太郎さん(51)は「国は医薬品を安定供給する仕組みも早く構築して」と訴えている。
取材・文/竹田菜七(北海道新聞記者)
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