• 柔軟剤「香害」、夏は特に注意 隣の洗濯物で頭痛、めまい 窓開けられず

    洗濯物をベランダや庭先に干す家庭が増える季節になった。この時季、近所の家の洗濯物から漂う柔軟剤の香りがきつく、頭痛やめまいを訴える人が増える傾向にある。空気中の化学物質がわずかでも体内に入ると体調を崩す化学物質過敏症(MCS)の発症につながるケースが多く、専門家は「夏場は特に、柔軟剤の過度な使用は避けて」と呼び掛けている。(北海道新聞記者 佐竹直子)

    「柔軟剤の香りが部屋に入ると頭痛やめまいがするので夏場は窓が開けられず、つらい」。道東に住む30代の女性はそう漏らす。

    化粧品にも反応

    4年ほど前に入居したマンションで、開け放った窓から隣近所が使う柔軟剤の強い香りが入り込み、それをかぐうちに体調を崩した。次第に芳香剤や化粧品などの香料にも反応するようになり、眼球の痛み、鼻血、動悸(どうき)などMCSの兆候が現れた。新型コロナウイルスの感染防止にアルコール系消毒液が使われている場所でも同様の症状が出るため、感染が広がった3月以降、ほとんど外出していない。

    MCSに詳しい渡辺一彦小児科医院(札幌)の渡辺一彦院長が昨年診察したMCSの新患は83人。8割が「柔軟剤の香りがきっかけ」と訴え、ほとんどが洗濯物を屋外に干す家庭が多い6~9月に発症した。成人女性が多く、重症化し退職や離婚につながった人もいた。小中高生が発症し、登校できなくなったケースもあったという。

    MCSは、柔軟剤や合成洗剤、化粧品、制汗スプレーなどに含まれる香料類で症状が出ることが多く、「香害」とも呼ばれる。2009年に国に病名登録された。初期症状は、頭痛やせき、鼻に刺激を感じるなど。発症すると反応する化学物質の種類がどんどん増え、下痢、筋肉痛、倦怠(けんたい)感、思考力低下など全身に症状が広がる。発症のメカニズムは解明されていないが、脳の機能障害とみられ、根本的治療法は見つかっていない。

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    この10年で急増

    渡辺院長が10年に行ったMCS患者への調査では、発症のきっかけは家の新築や改築で使った建築資材を挙げた人が最も多く、柔軟剤を挙げた人は1割に満たなかった。渡辺院長は「柔軟剤の影響を訴える人がこの10年で急増した。香りを持続させる商品開発競争が進み拍車をかけたのではないか」と推測し、「香りで体調を崩す人が近くにいたら、配慮して。特に窓を開ける夏場は、過度の使用は禁物」と訴える。

    柔軟剤にかかわる消費者相談も、夏季に集中している。国民生活センター(相模原市)と全国の消費生活センターが14年4月~20年1月に受けた柔軟剤の香りにかかわる相談は計928件。6~9月の相談が46%を占めた。頭痛や吐き気のほか、「食べ物の味が分からなくなった」などの症状があったと訴える相談が全体の64%あり、「窓を閉めても、換気扇からにおいが入る」という人もいた。

    同センターが4月に公表した商品テストでは、香りの強いタイプの柔軟剤を、メーカーが目安として示す使用量の2倍使っても香りは強まらないが、空気中の化学物質の濃度はほぼ2.5倍に上昇した。

    同センターは「香りは慣れると感じにくく、どんどん使用量が増えることもあるが、空気中の化学物質が増えるだけ。香りの効果は変わらない」と消費者に注意を促し、各メーカーが独自に表示する香りの強さに指針を設けるよう業界団体に要望している。

    消費者相談の事例

    休職や退職、休学の例も

    日本消費者連盟(東京)などでつくる「香害をなくす連絡会」は、香料により体調が悪化する「香害」についての調査結果をまとめた。回答者のほぼ8割が柔軟剤や合成洗剤、消臭剤などの香りで体調を崩したことがあり、香害で休職や退職、学校の欠席や休学を経験した人が2割に上った。

    2019年12月下旬~20年3月にインターネットなどで回答を募り、目標の千通の9倍を超す、9332通の回答が集まった。

    体調を崩した原因の製品(複数回答)は柔軟剤が86%と最多。香り付き合成洗剤73.7%、香水66.5%、除菌・消臭剤56.8%と続いた。症状(複数回答)は、頭痛(67.4%)と吐き気(63.9%)が多く、思考力低下やせき、疲労感がそれぞれほぼ3割。そのほか、めまい、鼻の粘膜の痛み、呼吸困難、失神、うつ、下痢など多岐にわたった。

    被害に遭った場所(複数回答)は、「乗り物の中」73.2%、飲食店などの「店」62.6%、公共施設52.9%が上位となり、「隣家からの洗濯物のにおい」も47%と半数近くを占めた。職場は44.2%、学校は21.3%だった。

    連絡会は「香害の実態を社会に知ってもらい、自主的に香りの自粛などに動きだしてもらいたい」とし、調査結果を消費者連盟のホームページ(https://nishoren.net/)で公開するほか、今後、国や自治体に対策を求める方針だ。

    連絡会の調べでは、道内自治体では札幌、石狩、旭川、釧路各市と十勝管内音更町が、香害への理解や、香料製品の過度な使用の自粛をポスターなどで呼び掛けている。

    柔軟剤の現状
    洗剤メーカーなどでつくる日本石鹸(せっけん)洗剤工業会によると、国内メーカー柔軟剤の2018年の販売量は約37万トンで、08年と比べ49.3%増えた。洗濯実態調査(15年)で、洗濯で柔軟剤を「毎回使う」と答えた人は76.7%。目安の使用量の2倍以上使う人がほぼ2割いた。柔軟剤に使われる香料に法的規制はなく、同工業会は自主基準で、適正使用量を守るよう表示することや、0.01%以上配合した香料分を表示するよう各メーカーに促している。近年は、香りを長持ちさせるため、香り成分をマイクロカプセルに閉じ込めて使うメーカーが増えており、「香害を誘発している」と指摘する声もある。

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