• 2019/10/23

    強い香り、不調の原因に 柔軟剤など急増、心身に被害 音更町はポスターで啓発

     バラやラズベリー、バニラなどさまざまな香りを売りにした日用品が近年急増し、洗剤やシャンプー、制汗剤などで日常的に香料を身にまとう人が増えてきた。一方で、その強い香りで体調を崩す人が十勝管内でも出始めている。香りによる健康被害「香害」について専門医らは危機感を示し、一部自治体では適切な使用を呼びかける啓発に動きだした。

     帯広市内で家族と飲食店を営む田頭照美さん(64)が体調に異変を感じるようになったのは6年前から。せきや頭痛、喉の腫れがひどくなり、「初めはぜんそくかなと思った」。かかりつけ医に相談したところ、強い香料などで誘発される化学物質過敏症(MCS)が疑われた。以来、仕事中はマスクが欠かせず、日用品も化学物質を含む合成洗剤から無添加のせっけん洗剤に切り替えた。

     田頭さんが香害に悩まされるようになったきっかけは、柔軟剤など日用品の間で広がった“香りブーム”。消臭スプレー、香り付け専用剤などさまざまな用途の香料があふれ、学校や職場、公共の場で衣類や髪から香りを発する人が増えてきたのだ。

     MCSに詳しい渡辺一彦小児科医院(札幌)の渡辺一彦院長によると、MCSの症状を抑える治療薬はなく、「治療の基本は誘因となる化学物質の回避」としている。また、香り付き柔軟剤などが誘因しやすい物質を含んでいることを指摘し、「最近はそれらでMCSを発症する人が増加している」と説明する。

     新得町の主婦小祝美雪さん(46)はもともと畑の農薬や工場からのにおいに悩まされていたが、香害の影響も相まって体調が悪化。3年前、札幌市内から避難するように十勝へ引っ越した。子どもの学校行事に参加する際は、「人が集まるところだと香りが気になってしまう。それでも行きたいから、グラウンドの端から双眼鏡を使って見ることもあった」と苦労を語る。

     MCSの影響は身体以外にも及ぶ。「精神的なつらさから周囲にきつく当たってしまい、あつれきを生むことも。人間関係が壊れてしまい、孤独を感じやすい」と小祝さん。新得では近所の人から無農薬の野菜を分けてもらったり、外で畑仕事を手伝うことで、体調が安定してきたという。「周りに受け入れてくれる人がいることがありがたい」と、周囲の支えの重要性を語る。

     MCS発症の仕組みは解明されておらず、香料を含む合成洗剤などとの関連性も証明されていないため、一般の認知度はまだ低い。帯広厚生病院呼吸器内科の高村圭医師は「診断するのも難しく、潜在的な患者がどれほどいるかも分かりにくい」と話す。過度な香り付けが気づかぬうちに一部の人の健康を脅かしているということを周囲が理解し、配慮することが必要になってくる。

     音更町では管内の他自治体に先駆けて9月から、MCSに対する理解と香りのエチケットを求める啓発ポスターを制作。免疫力が低下しやすいといわれる妊婦や乳幼児にも配慮しようと、役場のほか保育所や子育て支援センターなどに掲示し、協力を呼びかけている。町保健課は「子どものアトピーやアレルギーを心配する母親は多い。(患者に限らず)子どもを守るためにもマナーとして気をつけてもらいたい」と話す。

     帯広市内の産婦人科慶愛病院の広瀬一浩院長は、化学物質が妊産婦に与える影響について医学的に証明する文献は少ないとしながらも「(母体には)刺激が少なければ少ないほうがいい。皮膚もデリケートになるので、体にやさしいせっけん洗剤などをすすめることが多い」と話している。

     自分にとっては好きな香りでも、一部の人には体調不良を引き起こす原因となり得る。帯広の田頭さんは「『私ぐらい大丈夫』ではなく、『私から変えよう』という気持ちを持ってもらえれば」と願う。(正井晶子)