夫が家事「分かるけど…」 「すべき」8割が自覚 妻「教えるの面倒」

写真はイメージ

面倒だけど、誰かがやらなくてはいけない家事。日本では女性が家事を担う比率が高いですが、共働きや高齢者夫婦の世帯が増える中、家事は時に重荷になったり、イライラやもめ事の原因にもなっています。夫婦で平穏に家事を分け合うにはどうすれば良いのか、探ってみました。

声荒らげ「手伝って」

フルタイムで働く札幌市南区のマキさん(47)=仮名=は、保育園児と2人の小学生、会社員の夫、タカシさん(46)=同=との5人暮らし。平日は仕事と家事、子どもの世話に忙しく、休日も家事や習い事の送迎に追われています。本当は趣味の洋裁の腕を生かし、子どもの持ち物などを手作りしたいそうですが「今は残念ながら、時間の余裕が全くありません」と嘆きます。

夫は時々掃除機をかけたり、皿洗いをしますが、居間でテレビを見たり、スマホをいじっている時間も多いそう。くつろぐ夫につい「この子の着替え、手伝ってよ!」などと声を荒らげてしまうこともあります。「私が声を荒らげると、家族もイヤな気持ちになると思い、自己嫌悪になります。何度も伝えていることは、黙っててもやってくれればいいのに」とマキさん。

一方のタカシさんは「共働きなので半分ずつ家事を担いたいと思っていますが、なかなか妻のようには気が回りません」とぼやきます。タカシさん自身は子どものころ、家事は母親が担い、父親が家事をする姿は見たことがありませんでした。男性が家事をする様子を具体的にイメージしづらいと言います。

退院の日に「夕食は」

専業主婦の中にも、家事分担に複雑な思いを持つ人もいます。小樽市のサチコさん(70)=同=は地域のボランティア活動に週1、2回出かけますが、夫(70)が料理を全くしないため、いつも食事の用意をしてから外出しています。サチコさんが以前、肺に大病を患って入院した際も、退院した日に「今日の夕食は何だい?」と当然のように聞かれました。「夫は私より体も丈夫だし、少しぐらい料理をしてほしい。でも今から始めるのは難しいでしょうね」と諦め顔です。

6歳未満の子どもを持つ夫婦の家事・育児時間

男性は一般的に、家事をどの程度担っているのでしょうか。内閣府が作成した資料によると、6歳未満の子どもを持つ夫婦の家事・育児時間の平均は、妻7時間34分、夫1時間23分(2016年)で、他の先進国より低い水準にとどまっています=グラフ上=。

とはいえ、意識には変化が見られます。博報堂生活総合研究所が18年に行った調査では、「夫も家事を分担すべき」と考える男性は81.7%で、30年前の38.0%から2倍以上に増加しました=グラフ上=。家事に対する男性の意識は変わったものの、行動が伴っていない現状について、同研究所の十河瑠璃研究員は「男性の長時間労働に加えて、家事を長く担ってきた女性の中には『夫に教えるのは面倒なので、自分がやった方が早い』と考える傾向があることも影響しています」と分析しています。

シェアのすすめ 札幌市が小冊子

自治体も家事分担の必要性に着目しています。札幌市は今秋、小冊子「家事シェアのすすめ」を発行し、共働き夫婦の実情や、分担を進めるための心得などを、チェックリスト付きで紹介しました。「女性活躍を進めるには、男性の家事・育児への参加が不可欠。男性自身がその大切さに気づき、パートナー同士でコミュニケーションを取るよう促したい」と市男女共同参画課。B5判16ページ。市ホームページ(http://www.city.sapporo.jp/shimin/danjo/ssb.html)で公開しているほか、11月下旬以降に各区役所などで配布します。問い合わせは同課(電)011・211・2962へ。

夫婦で家事に向き合い、円滑に分担を進めるための方策について、アンガーマネジメントコンサルタントの岡本真なみさん(札幌)と、「男性学」を主に研究する大正大(東京)の田中俊之准教授に聞きました。

励みになるような言葉を
アンガーマネジメントコンサルタント・岡本真なみさん

​岡​本​真​な​み​さ​ん​

おかもと・まなみ 北大経済学部卒。全国の企業や病院で接遇研修や顧客満足度調査を実施し、アンガーマネジメントを伝えている。共著に「医療&介護 職場のルールBOOK」(医学通信社)がある。

女性には「分担させ上手」になってほしいと思います。夫のように身近な存在は「相手を変えられる」「言わなくても、伝わる」と考えやすく、怒りの感情を持ちやすい相手です。でも実際は、夫婦の価値観は一緒ではありません。

食器洗いを例に、妻は「洗ったお皿は、洗いカゴに立てて並べるべきだ」と考える一方、夫は無頓着で、重ねて置いているとしましょう。妻から見ると「なぜ重ねるの?」と怒りたくなるでしょうが、怒っても夫は変わりません。「お皿は立てて置くと水切りが良いので、立てて並べて」と理由を添えて説明すると、説得力が加わり、夫も納得して行動を変えやすくなります。

また、同じ家事を長く担当すると「こうするべきだ」という意識が知らず知らずのうちに強まります。怒りの感情は「べき」が裏切られた時に起きやすく、「ちゃんとやってよ!」「違うでしょ」と怒りたくなりますが、それは職場ならパワハラに当たる可能性があります。少し面倒ですが、新入社員に接するような気持ちで家事のやり方を伝え、「ありがとう」「助かる」など励みになるような言葉を時に伝えていくと、夫も家事へのモチベーションが上がります。

怒りの感情は、疲れている時や、「つらい」「寂しい」などネガティブな感情がたまっている時にわきやすいものでもあります。自分自身の気分転換も、大切にして下さい。男性の側は家事を「手伝ってあげる」ではなく、主体的に「シェアする(分担する)」という気持ちを持つことが大切。男性は家事の中で、比較的難易度の低いものを担当しているのが現状です。その点も自覚しておくと、妻と良好なコミュニケーションを取りやすくなると思います。

コミュニケーションしっかり
大正大学・田中俊之准教授

たなか・としゆき 1975年、東京都生まれ。内閣府男女共同参画推進連携会議の有識者議員などを務める。「男子が10代のうちに考えておきたいこと」(岩波ジュニア新書)など著書多数。

男性側に「家事を担う必要がある」という意識はあるのに行動が伴わない背景には、教育面と家庭面での理由があると思います。今の40代以上の男性は、中高生時代に学校で家庭科を学びませんでした。家庭では専業主婦の母親が家事を担い、男の子は手伝いをあまり求められません。無意識のうちに「家事は自分の役割ではない」と認識し、家事が行動として身に付いて来なかったことが背景にあります。

男女の賃金格差も、家事分担に影響を与えています。フルタイムで働く女性でも、賃金水準は男性の7割程度にとどまっています。夫の育休や時短勤務を検討する時に「夫の給料を減らしてまで、夫に家事や育児を担わせようとは思わない」という女性もいるでしょう。男女の賃金格差は解消されなければなりませんが、今の現状を踏まえて、夫の労働時間と給料をどの程度まで減らし、どの程度家事を担わせるのが良いのか、夫婦で価値観を共有する必要があります。

日本社会では「男は仕事、女は家庭」という性別役割分担の意識が強く、男性は「定年まで40年間、働き続けるのが当たり前」という見えないプレッシャーにさらされてきました。これは精神的に相当な負担で、家事や地域活動など、仕事以外のことは考えないようにしないと難しいことだったかもしれません。

私は男性が、男性自身のためにも、家事・育児をもっと担うべきだと思います。家庭や地域での役割を果たしてこそ、定年後も居場所があるし、人生の可能性が広がります。妻は夫のワークライフバランスを大切にし、夫は家事から逃げない。そうした前提で、夫婦でしっかり話し合うと良いと思います。

取材・文/酒谷信子(北海道新聞記者)


北海道新聞くらし報道部は、札幌市の「家事シェアのすすめ」を参考に、家事分担のチェックリストの例を作成しました。こちらを活用して夫婦の現状を把握し、話し合いのきっかけにしてはどうでしょうか。

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