旭川で3カ所休止 助産所の利点、課題は 「あゆる」北田院長に聞く

「助産所では母親一人一人に対応したケアができる」と語る、助産院あゆるの北田恵美院長

嘱託医が急逝し後任が見つからないため、旭川市内の三つの助産所が分娩(ぶんべん)を休止している問題で、市民有志が市に調整や支援を求めて行っている署名が、30日の締め切りまであと1週間に迫った。病院と助産所での分娩の違いは何か。2005年の開業以来、約500人の誕生に携わり、現在分娩を休止している旭川市の「助産院あゆる」の北田恵美院長(59)に聞いた。

子育てまで継続的にケア

――国内の出生場所は病院・診療所が主流で、助産所の年間出生数は1%弱です。病院と助産所の違いは何ですか。

「助産所は、1人の助産師が、妊娠から出産、子育てまで継続的にケアできるのが特長です。少子化や核家族化で、母親たちは頼れる大人が少ない。私は、妊婦から生い立ちや家族関係、悩みや不安なども聞き、一人前の母親として育てていく覚悟で接しています。病院での勤務経験もありますが、ここまで母親一人一人に対応したケアは病院では難しい。これが私が助産所を開いた理由でもあります」

――出産は母子の命に関わります。助産所での安全対策は。

「助産所では帝王切開などの医療行為が必要のない、正常な分娩(ぶんべん)のみ扱います。詳細は日本助産師会が監修する『助産業務ガイドライン』で定めており、個々の助産師が判断するわけではありません。例えば合併症のある人や、双子など多胎妊娠の場合は助産所では産めません。安全第一なので、妊娠中に高血圧が続くなど状況が変われば病院に転院することもあります」

――7月末から分娩が休止となり、どのような影響がありますか。

「急に助産所で産めなくなったため、妊婦さんのショックは大きいです。心配なのは、病院で産むことに拒否感がある人が、自宅で家族だけで産む無介助分娩を選ぶこと。命の危険を伴います」

――分娩の再開には、嘱託医と連携医療機関の確保が必要ですが時間がかかっています。この状況を変えるには何が必要ですか。

「地域の医療機関の理解です。静岡市では県立総合病院が、市助産師会の要望に応じて、市内全ての助産所の連携医療機関を担うと取り決めています。嘱託医不足も起きておらず、助産所は増加傾向にあります。助産所が個別で探すには限界があり、行政との連携も不可欠です」

母親「楽な姿勢で出産できた」

助産所で出産経験のある母親たちの支持は根強い。旭川市の自営業、会田さやかさん(37)は長男(9)を市内の病院で出産した時は、分娩(ぶんべん)台でうまくいきめず産科医が会陰切開を施し、おなかを押して出産。安産ではあったが、「自分の力で産んだ実感が湧かなかった」と振り返る。

長女(4)の出産で選んだ「あゆる」では、妊婦健診は毎回1時間かけて、じっくり話を聞いてもらえたのが印象深いという。出産はクッションに寄りかかり、最も楽だと感じた四つんばいで産んだ。「産道から出てきた娘の頭を触った時の、温かく柔らかい感触を今も鮮明に覚えている」と笑顔を見せる。

今秋、次男も「あゆる」で出産する予定だったが、嘱託医の不在で泣く泣く諦めており「助産所で産む選択肢を無くさないでほしい」と訴える。

助産所で出産経験があり、3助産院の分娩継続のため、支援や調整を旭川市に求める署名活動に携わる旭川市の自営業武田梨紗さん(44)は「妊娠から出産まで同じ助産師が対応してくれるのが助産所の良い所。母親が満足できる出産を増やしたい」と話す。

署名の詳細はフェイスブックの「助産院に産声を!応援会 旭川」で。30日締め切りで、12月中に市に提出する予定。

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