関心広まる「HSC」 人一倍敏感な子たち 感受性豊か でも傷つきやすく

母親のユウコさんと自宅でドリルを解くショウタ君。勉強には何の支障もないが「人一倍の敏感さでつらい思いもしてきたと思います」(ユウコさん)

母親のユウコさんと自宅でドリルを解くショウタ君。勉強には何の支障もないが「人一倍の敏感さでつらい思いもしてきたと思います」(ユウコさん)

「Highly Sensitive Child」を略した「HSC」。「人一倍敏感な子」「とても敏感な子」と訳される。感受性が豊かで人の気持ちや環境の変化によく気が付く一方、気疲れしやすく、ささいな叱責(しっせき)にも深く傷つく気質を持つ子どもを指す。3年前、一般向けの書籍で米国での研究が日本で紹介されてから、徐々に関心が広がってきた。従来の子育てのアドバイスでは対応が難しいこともあり、専門家は「『HSC』の子どもを持つ親は、他の親とは違う子育てをする覚悟も必要だ」と助言する。

障害該当せず

「うちの子はこれだ、と思いました」。道東に住む40代女性のユウコさん=仮名=は、そう振り返る。

息子のショウタ君(6)=同=の子育てに長く悩んできた。赤ちゃんのころからよく泣くが、理由が分からない。慣れない洋服や食べ物、遊びをとても嫌がり、子育て広場でも楽しそうに過ごしていたかと思うと、ふとしたことで泣きだす。

発達障害と知的障害の検査を受けたが、該当しなかった。「お母さんが何か問題を抱えていない?」「甘やかしたから、こうなったのでは」―。親戚や友人の言葉にショックを受け、育児方針を巡って夫ともめることも多かった。

今春、HSCについて知り、ようやく理解できた気がした。息子は敏感なために、不快だったり、不安な思いをしているのかもしれない。泣きやむのを待ち、ゆっくり理由を聞くようにした。すると、以前の嫌な経験をよく覚えていて、同じ場面に不安を抱くことが多いと分かった。

例えば、菓子店で好きな商品が欠品していたことにショックを受け、後日、同じ店に行こうとして嫌な思いがよみがえり、「行かない」と泣いて拒んだこともあったという。

その後、ユウコさんは不安を和らげるような言葉をかけるよう心がけた。すると、泣く回数が減り、泣いても短時間で落ち着くようになった。「HSCのような子どもがいることを広く知ってもらえると、気持ちが楽になる親子は多いと思う」とユウコさんは話す。

HSCのチェックリスト

生来持つ気質

HSCは米国の心理学者、エレイン・N・アーロン博士が2002年に提唱した。病気や障害ではなく生まれ持った気質で、人口の15~20%が該当するという。「深く考える」「共感力が高く、感情の反応が強い」「過剰に刺激を受けやすい」「ささいな刺激を察知する」の四つの特性を全て持つとされる。

事前に「失敗しないか」などと、いろいろな可能性を考えるため、行動するまでに時間がかかることがある。共感力が高いため、困っている人によく気が付き、優しく思いやる一方、テレビの刺激の強い場面を怖がり「消して」と言うことも。暑さや寒さ、大きな音、痛さにも強く影響されて疲れたり、食事のちょっとした味の違いに敏感に反応して「いらない」と手を付けないことがある。

本人は困っていても、周囲からは「わがまま」に見えやすく、親は周囲の目が気になりがちだ。

2015年、アーロン博士のHSCに関する本が、心療内科医の明橋大二・真生会富山病院(富山県)心療内科部長の翻訳で出された。発行した1万年堂出版(東京)には「今までどの子育て本も当てはまらず困っていたが、ようやく子どもを理解できた」といった親の声が多数寄せられたという。「(一般向けの書籍としては)国内では初めて。HSCの子育てに悩む親の多さを実感しています」と同社編集部。明橋さんは「HSCの子の親は、他の親と違う親になる覚悟も時には必要。一般的な育児アドバイスからは少し距離を置き、子どもの声に耳を傾けてほしい」とアドバイスする。

一方で、HSCが子どもへの新たな「レッテル貼り」にならないだろうか。

明橋さんは「子どもは一人一人違う。家庭や学校でそれぞれに合わせた関わりができるなら、『HSC』という呼称は必要ない」と話す。ただ、現実には自分の子どもが他人と違っていると、「育て方がおかしい」などと言われかねない世の中だ―とした上で、「HSCを一人一人の子どもを理解するヒントとしてほしい」と話している。

取材・文/酒谷信子(北海道新聞記者)

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