出産しても産声だけ、退院まで10日間会えず コロナ感染、札幌の女性

胸元で眠るわが子の手を握る、新型コロナ感染中に出産した女性(中村祐子撮影)

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、妊婦の感染者も増えている。妊娠後期の感染は重症化リスクが高く、感染中の妊婦から生まれた赤ちゃんは感染リスクがなくなるまで母子の分離を余儀なくされる。臨月で感染し、4月に出産した札幌市の女性(44)は「退院するまで赤ちゃんと会えなかったのが一番つらかった」と当時の心境を語った。

急変し帝王切開

「まさか自分が」。4月下旬、女性は38度の熱が出た。前日から発熱のあった夫(44)がその日、PCR検査を受けていた。翌日、夫の陽性が判明、宿泊療養施設に隔離された。感染経路はわからない。その後、濃厚接触者として受けた検査で、女性も陽性と判定された。いつ陣痛が起きてもおかしくない臨月の妊娠36週だった。

医療の逼迫(ひっぱく)が報じられる中、「受け入れ施設が見つかるのか」と心配したが、すぐに妊婦用のコロナ病床を設ける北大病院に救急車で運ばれた。発熱のみだった症状は、酸素投与を必要とするほど急激に悪化。入院3日目に急きょ、感染リスクを最小限に抑えられる帝王切開で出産することになった。

夫立ち会いの自然分娩(ぶんべん)での出産を思い描いていた女性にとって、夫が宿泊療養中に迎える初のお産は不安だったが、「大事なのは無事に産むこと。支えてくれる医療者がいる、独りぼっちのお産じゃない」と気持ちを切り替えた。

手術室では感染対策のため、赤ちゃんは生まれてすぐ新生児集中治療室(NICU)の隔離室に移された。女性は産声だけは聞こえたが、顔を見ることもできなかった。「普通に生まれていたら、すぐ抱きしめてあげられたのに…。ごめんね」と涙が出た。

赤ちゃんは検査で陰性だったが、女性は産後も肺炎の症状が続き、5日間ほどベッドから起き上がれなかった。赤ちゃんや家族とも面会できず、気持ちが落ち込むこともあったが、看護師たちが毎日送ってくれる赤ちゃんの写真や動画に励まされたという。

女性が初めてわが子を抱くことができたのは、一緒に退院できた5月中旬。出産から10日がたっていた。「『やっと会えたね』と、ほっとした」。今、女性に後遺症はなく、子どももすくすく育っている。女性は「コロナ禍の中、多くの人の助けを受けて生まれたわが子には、たくましく育ってほしい」と願っている。

4月以降に増加

厚生労働省研究班によると、5月10日までに医療機関から登録された感染妊婦は計417人。道は道内の感染妊婦の数を「集計していない」(新型コロナウイルス感染症対策本部指揮室)とする。だが、女性を担当した北大病院産科の馬詰武医師(40)によると、道内で変異株が拡大した4月以降、妊婦の感染が増加。同病院が対応した感染妊婦計37人のうち7割以上が4月以降の感染という。「ほとんどが家庭内感染。妊娠後期は重症化しやすいことがわかっており、特に注意が必要」と呼びかけている。

取材・文/根岸寛子(北海道新聞記者)

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