サイトメガロウイルス、母子感染に注意 胎児が障害起こす可能性

母子感染で子どもの脳や目、耳などに重い症状が出る「TORCH(トーチ)症候群」。その中で最も感染者数が多い先天性サイトメガロウイルス感染症は、妊娠中の初感染にリスクが高いとされてきたが、最近の研究で、妊娠前に感染して抗体のある妊婦でも胎児への感染が多いことが報告された。近年、感染児の早期診断の重要性が高まる中、今年から診断薬が保険適用となった。専門医は「早期診断・治療への道が広がる」と評価する一方、あらためて「妊娠時は感染予防を心掛けて」と呼びかけている。

新生児診断薬早期発見へ保険適用

先天性サイトメガロウイルス感染症は、新生児全体の300人に1人が感染し、感染児の約20%に小頭症や難聴、発達の遅れなどの症状が出るとされる。出生時に症状がなくとも、遅れて聴覚障害などが発症するケースもある。

サイトメガロウイルスはどこにでもいるウイルスで、多くが子どものうちに感染する。国内では成人女性の7割が抗体を持つ。健康な大人や子どもが感染しても問題はないが、妊婦が初感染した場合、約4割が胎児に感染するとされる。感染を防ぐ有効なワクチンはない。

ウイルスは主に子どもの唾液や尿などに多く潜んでいるとされ、感染予防には《1》おむつ交換や子どもの鼻水・よだれを拭いた後の手洗い《2》子どもと飲食物や食器、歯ブラシを共有しない―などが大切だ。育児中や子どもに接する機会が多い仕事をしている妊婦は、特に注意したい。

自分に抗体があるか、妊娠中に感染していないかは血液検査で調べられる。ただ、通常の妊婦健診の検査項目に必須とされていないため、気になる場合は自ら積極的に医師に検査を依頼する必要がある。

同感染症は、ほとんどが妊娠中に初感染した母親から生じると考えられてきたが、そうとは言い切れない研究結果が昨年、報告された。神戸大付属病院などが2010~16年に受診した妊婦を調べたところ、ウイルスに母子感染した新生児は10人。うち母親が妊娠中に初感染したのは3人にとどまり、妊娠前に抗体を持っていても胎児に感染してしまうケースも相当数あることが示された。

これに対し、サイトメガロウイルスに関する日本医療研究開発機構(AMED)研究班メンバーで、氏家記念こどもクリニック(札幌)の古谷野伸医師は「妊婦の抗体検査だけでは、多くの感染児を見落とす恐れがある」と指摘する。現在、母親が初感染などで母子感染が疑わしい場合に新生児の感染の有無を調べる検査を実施しているからだ。古谷野医師は「出生後、早期に抗ウイルス薬で治療を行うことで症状が改善できることが明らかになっており早期診断が重要。全ての新生児に感染の有無を検査すべきだ」と強調する。

今年1月には生後3週間以内の新生児の尿から感染の有無を調べる診断薬が保険適用となった。古谷野医師は「早期診断につながる機会が増えた」と期待。その上で「抗体の有無にかかわらず妊娠中は感染を避ける行動を」と呼びかける。

情報不足で偏見も 患者会「正しい知識を」

先天性サイトメガロウイルス感染症に関しては、情報不足による周囲の偏見が当事者たちを苦しめている。患者会「トーチの会」北海道支部長の吉田美知代さん(45)の長女陽菜さん(15)は生後1カ月で同感染症と診断された。インフルエンザのように飛沫(ひまつ)感染することはないが、当時の主治医からは「妊婦には近づかないように」と誤った指導をされ、悩んだという。

また、同会には出生時に感染していた子供が保育園などで隔離されているとの相談が全国から寄せられている。吉田さんは「ウイルスは多くの乳幼児が自然に感染するため、胎内で感染した赤ちゃんだけに対する特別な防護策は必要ない。妊婦以外も正しい知識を持ってほしい」と話している。

同会のホームページ(http://toxo-cmv.org/)では先天性サイトメガロウイルス感染症、先天性トキソプラズマ症に関するQ&Aや体験談を掲載している。

取材・文/根岸寛子(北海道新聞記者)

TORCH症候群

母子感染によって新生児の臓器や神経などに障害が起こるおそれのある疾病の総称。生肉や猫のフンから感染する先天性トキソプラズマ症(T)、先天性梅毒など(O)、先天性風疹症候群(R)、先天性サイトメガロウイルス感染症(C)、新生児ヘルペス(H)がある。

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