母乳バンク、徐々に広がり 低体重の赤ちゃんの病気リスク減らす 道内にもドナー登録施設 提供先はまだゼロ

さまざまな事情で母乳を与えることができない親に代わり、ボランティアから寄せられた母乳(ドナーミルク)を提供する「母乳バンク」の活動が、少しずつ広がっている。国内では2014年に始まった取り組みで、早く小さく生まれた赤ちゃんの病気を予防するのが目的だ。道内では2年前、母乳を提供したいという人のドナー登録施設として、初めて札幌市内の医療機関が認定された。


「臓器などが未発達のまま小さく生まれた赤ちゃんにとって母乳は命を救う『薬』のようなもの」。のえる小児科(札幌市豊平区)の瀬川雅史院長は妊娠37週未満で生まれた早産児や、体重1500グラム未満の極低出生体重児に母乳が与える効果の大きさを強調する。

低温で殺菌処理

同院は19年9月、国内で母乳バンクの活動に取り組む一般社団法人日本母乳バンク協会(東京)からドナー登録施設に認定された。ドナー希望者に無料で問診や血液検査などを行い、これまでに10人が登録した。

ドナーは登録後、各自で搾乳した母乳を冷凍して協会に送付。協会は全国から集まったドナーミルクを管理し、細菌検査や低温殺菌処理を行う。昨年度は新生児集中治療室(NICU)のある道外の医療機関24施設に送り、1500グラム未満で生まれた赤ちゃんら計203人が提供を受けた。

同院で検査を受け、ドナー登録した札幌市東区の女性(38)は昨年8月から今年1月まで定期的に母乳を送った。「母乳の出が多く、提供できなかったら捨てるしかなかった。少しでも小さな赤ちゃんの力になれたならうれしい」と話す。

学会委も後押し

妊娠経過が順調であれば、妊娠40週前後に出産を迎える。赤ちゃんの出生時の平均体重は約3000グラム。ただ、出産が早まり、1500グラム未満で生まれる赤ちゃんは年7千人に上り、その割合は増加傾向にある。

小さく生まれる赤ちゃんの割合は増加傾向

医療の進歩で、1000グラム未満の赤ちゃんも助かるようになったが、早く小さく生まれた赤ちゃんの臓器は発達が十分ではなく、死亡リスクの高い壊死(えし)性腸炎などさまざまな病気にかかりやすい。母乳には赤ちゃんの未熟な腸の負担を減らし、病気の重症化を防ぐ効果が見込めるという。

だが、母乳が十分に出なかったり、母親の病気などで自身の母乳を与えられなかったりするケースもある。日本小児科学会などでつくる「日本小児医療保健協議会」の委員会は19年、早産児や極低出生体重児に母親の母乳を与えられない場合、ドナーミルクの使用を提言した。

年5千人分必要

母乳バンクは1900年代初めに欧州で誕生し、現在、50カ国以上で600カ所を超えるとされる。国内では、昭和大小児科(東京)の水野克己教授が2014年に同大江東豊洲病院内に開設したのが始まり。17年に協会を設立し、他の医療機関へ無償提供を始めた。昨年、育児用品メーカーのピジョン(東京)から設備面などの支援を受け、年間約1100人の赤ちゃんに提供できる体制になった。今年4月から日本財団(東京)とも提携を開始した。

協会は、ドナーミルクを必要とする赤ちゃんを年間約5千人と推定しており受け入れ設備の拡大とドナー数の安定的確保を目指す。一方で、これまでに提供を受けたNICUの数は全国の1割にとどまり、道内の医療機関はゼロ。水野教授は医療機関側の認知度の低さが背景にあるとみている。冷凍した母乳には使用期限があり、提供が急増すると登録希望者を断らざるを得ない状況も生じる。需要の掘り起こしも急がれる。

日本母乳バンク協会 水野代表理事
認知度の低さ課題、周知に力

日本母乳バンク協会代表理事の水野克己昭和大教授に話を聞いた。

――母乳バンク開設のきっかけは。
「母乳が特に早産の赤ちゃんに良い効果をもたらすことがわかってきました。ただ、なんらかの理由で母乳をあげられない母親もいます。新生児医療の現場では、他の母親の母乳をそのまま与える『もらい乳』を行う施設も珍しくありませんでしたが、感染症の懸念などから今は姿を消しつつある。どんな場合でも必要な赤ちゃんに安全に管理された母乳を与えられる仕組みが必要だと考えました」

――道内にもドナー登録施設ができました。
「登録施設は全国16医療機関で、開設当初から200人以上がドナー登録しました。ドナーの申し込みはこの4、5倍はあったと思いますが、登録施設が近くにないなどの理由で断らざるを得ませんでした。現在は母乳を冷凍保存するスペースの確保が追いつかず、新規登録を中断中で、6月ごろに再開予定です」

――多くの赤ちゃんにドナーミルクを届けました。
「開設当初からこれまで500人以上に提供しました。母乳バンクを利用する赤ちゃんやドナー、医療機関は増えてきましたが、認知度が高いとは言えません。ピジョンが昨年、全国の妊婦や母親に行った調査(516人)では、『母乳バンク』の名称と内容を知っていた人はわずか1割。活動を広げていくためにも、周知に力を入れていきたいです」

取材・文/根岸寛子(北海道新聞記者)

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