妊娠中に注意してほしい母子感染 おなかの赤ちゃんに影響も

写真はイメージ(Mills / PIXTA)

妊婦が感染すると、生まれてくる赤ちゃんに障害が出る恐れのある病気を総称して「トーチ症候群」といいます。中でも多いのが、サイトメガロウイルスとトキソプラズマによる感染症です。いずれもワクチンはなく、それぞれの感染経路に合わせて予防することが大切です。母子感染症について多くの人に関心を持ってもらおうと、患児の母親らが絵本作りのプロジェクトに取り組んでいます。

サイトメガロウイルス 子どもの尿や唾液を介し感染
尿検査に保険適用 早期発見、治療に期待

サイトメガロウイルスはどこにでもいるウイルスで、多くの人は子どものうちに感染し、免疫(抗体)を獲得します。ただ、現在は衛生環境の向上などにより妊婦の3割が抗体を持たないとされています。

感染してもほとんど症状はなく、体内に潜伏し続けて、特に悪さをしません。しかし、妊娠中に感染すると、胎盤を通じて胎児に感染するリスクがあり、赤ちゃんが小頭症や水頭症、難聴などを発症する場合があります。

主な感染経路は子どもの唾液や尿で、下の子を妊娠中に上の子から感染する例が多いです。予防には子どもの食べ残しを食べたり、食器を共有したりしない、おむつ交換や子どものよだれ、鼻水を拭いた時は手を洗うことなどが大切です。

抗体があるかどうかは希望すれば血液検査で調べられますが、妊婦健診の検査項目にはありません。2018年に赤ちゃんの感染の有無を調べる検査が保険適用になりました。対象は、母親が妊娠中に感染が疑われたり、おなかの中や生まれた直後に疑わしい症状がみられたりした赤ちゃんで、確実に診断できるのは生後3週間以内とされています。

日本産婦人科感染症学会理事長の山田秀人さん=手稲渓仁会病院不育症センター長=は「早期に発見できれば、適切な処置につながる」と強調します。

母子感染して赤ちゃんに症状が出ても、生後2カ月以内に抗ウイルス薬を使えば、聴力などが改善できるといい、現在、保険適用に向けた治験が進んでいます。山田さんは「疑わしい場合は速やかに赤ちゃんへの尿検査を実施すべきだ」と話しています。

トキソプラズマ 肉や猫のフンに潜む
妊娠中に飲む薬、保険適用に

トキソプラズマは寄生虫の一種で、肉や猫のフンなどに潜んでいます。加熱不十分な肉を食べたり、猫のフンが混じる土や水が誤って口に入ったりして、感染することがあります。

妊娠中に初感染すると赤ちゃんに小頭症や目の炎症などを引き起こす場合があります。

土を触った後は手をよく洗う、生肉や十分加熱していない肉は食べないことなどが予防になります。山田さんは「エゾシカにも多く、ジビエ料理にも気をつけて」と言います。

感染しても症状が出ないことも多く、気づきにくいです。感染歴は血液検査でわかりますが、全ての医療機関が妊婦健診で行っているわけではありません。妊娠中に感染した場合、治療薬としてスピラマイシンが3年前に初めて保険適用となりました。出産まで飲み続けることで、重症で生まれてくる赤ちゃんを減らすことができるといいます。

患者家族の会が絵本

これらの母子感染症は、これまで見逃しの多さや対応の遅れが指摘されてきました。道内に支部もある患者家族でつくる「トーチの会」(東京)の渡辺智美代表は「妊婦だけでなく、医療現場でも十分に理解されているとは言いがたい」と指摘します。「保険適用となった確定診断できる検査薬や、症状を改善する治療薬があるので、多くの人が母子感染を理解し、一人でも多くの早期診断、早期治療につながってほしい」と訴えます。

同会は、母子感染が原因で亡くなった米国女性の体験記を基にした絵本を全国の産院に配ろうと、4月25日までクラウドファンディングで資金を募っています。

詳細は会のホームページ(https://toxo-cmv.org/)で。

取材・文/根岸寛子(北海道新聞記者)

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