• 道内最古の乳児院 函館・さゆり園

    晴れた日の園庭で子どもをだっこする職員
    子どもと一緒に生きる大人たちがいる。大きな笑い声と甲高い泣き声が、絶えず響くあったかい場所―。夜景を一望できる函館市元町の人気観光スポット「八幡坂」。ピンク色の乳児院「さゆり園」は坂の途中にある。虐待や困窮など、家庭にさまざまな事情のある子どもたちが親元を離れて暮らしている。(文/函館報道部・菊池真理子、写真/函館写真課・桶谷駿矢)

    「ぎゅーして」

    「ぎゅーして。次はいつ来てくれるの?」

    8月、夕暮れ時の園庭で遊んでいたリツちゃん=仮名=が、勤務を終えて帰ろうとする保育士の手を握った。生死に関わる大けがを負い、家庭での虐待が疑われた子。保育士は小さな背中をそっと抱きしめた。

    「本来は子どもが『ぎゅーして』と言わなくても、親が抱きしめてくれるはず。家庭と同じように、子どもの望みをありのまま受け入れたい」。保育士の宮崎美和さん(52)は、そう語る。

    さゆり園は函館の人気観光スポット「八幡坂」の傍らにある

    道内の乳児院は、札幌とさゆり園の2カ所のみ。さゆり園は定員20人で、社会福祉法人函館聖パウロ会が運営する。児童相談所が入所を判断し、就学前でおおむね0~3歳の子どもが預けられる。

    絵本を読んだり、ブロックを積み上げたり。天気の良い日には園庭を走り回り、異国情緒あふれる函館の西部地区を手をつないで散歩する。子どもたちがはしゃぐ様子は、一見すると保育園と変わらない。

    「また来るからね」

    子どもを預ける親の事情はさまざまだ。精神障害があり、部屋はゴミであふれ、おむつの交換もままならない人。夫から暴力を受け、顔にあざをつくって面会に訪れる人。「夜の仕事」をしていたが夜間託児所の利用料が高く、経済的に困窮したシングルマザーや、「子どもの泣き声がうるさく、子どもの口をふいさいでしまった」と自らSOSを出した母親もいた。

    お昼寝をしている子どもにそっと手を添える職員

    10月中旬、20代の母親がさゆり園に面会に訪れた。2歳のイツキちゃん=仮名=に声をかける。「上手に話せるようになったね、なかなか来られず、ごめんね」。新型コロナウイルスの感染防止のため、面会時間は普段より短い30分間。あっという間に過ぎ、母親はイツキちゃんと手を合わせた。

    「また来るからね」

    母親との面会前、さゆり園の職員で、家庭支援専門相談員の平原美奈さん(53)は、「美奈ちゃんと遊ぼっ!」とイツキちゃんを手招きした。そして、膝をつき、目線を合わせて話しかける。「ママが来てくれたよ、会ってくれるかな?」。イツキちゃんは少し顔をこわばらせ、うなずいた。「大丈夫、美奈ちゃんもそばにいるから」。優しく抱き寄せた。

    ■発信<函館 乳児院 明日を信じて>
    この記事は、2020年10月下旬に北海道新聞全道版で3回連載した発信<函館 乳児院 明日を信じて>をもとに、加筆・再構成しました。
    (上)虐待、困窮… 親元離れ
    (中)愛情込め 変化見逃さず
    (下)時代に合わせ親子支える

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