保育現場「新しい生活様式」模索 健やかな成長と感染リスクのジレンマ

感染防止対策のため、頭と足を交互にして眠る子どもたち=錦岡保育園提供

身体的距離の確保や3密の回避を柱とする「新しい生活様式」。私たちの暮らしには徐々に浸透しつつありますが、子どもとの密接なかかわりが求められる保育の現場では、実践が難しい部分もあります。子どもの健やかな成長と、感染リスクの低減をどう両立させるか、保育現場では模索が続いています。

「密なかかわり」どこまで

苫小牧市の錦岡保育園のお昼寝の時間。普段は同じ方向へ頭を向けて眠る園児たちが、頭と足を互い違いにして並び、小さな寝息を立てています。「子どもの顔と顔が近くなり、息がかかるのを防ぐようにしています」と斎野伊知郎園長。

新型コロナウイルスの感染拡大以降、同園では職員は全員マスクを着用し、出勤時に体温を記録。給食では保育室に加えて廊下も使い、テーブル同士の距離を保つなど感染防止に努めてきました。

しかし、対策が難しい部分もあります。新しい生活様式では人との間隔を最低1メートル空けるよう求めていますが、子どもは他の子と一緒に遊びたがり、泣いて抱っこを求めることも。乳児はおもちゃをなめます。

斎野園長は「子どもは遊びの中で社会性を身に付けていきます。感染防止対策を工夫しつつ、これまで通り自由に遊ぶことも尊重していきたい」と話します。

「保育士はもともと、園児と密接にかかわるのが仕事です。『子どもと密接にかかわる』ことと、感染防止のため『密なかかわりを避ける』という、相反することを求められるのがつらいですね」。北広島市立稲穂保育園の藤田悦子園長はそう漏らします。

同園でも、保護者の送迎は玄関先までとし、公園遊びの際は遊具を拭きます。給食時は手洗いに加え、直前に各テーブルを消毒するなど感染対策を徹底してきました。

ですが、子どもとの距離の取り方には、やはり難しいものがあります。特に4月に入園したばかりの0~1歳児はまだ不安を感じて泣くことも多く、ふだん以上に密接な保育が必要になります。

「子どもは保育士に抱っこしてもらい、安心したら少し遊びます。そしてまた不安になって抱っこを求める。その繰り返しです」。新しい生活様式にある「食事中のおしゃべりは控えめに」も、乳幼児は現実的に無理と言います。

マスクについては、日本小児科医会が熱中症や窒息のリスクがあるとして2歳未満は着用しないよう勧めているため、両園とも、低年齢の子には着用を求めていません。

熱中症のリスクは、3歳以上の子どもや保育士にもあります。稲穂保育園では気温や活動内容に応じ、息苦しさを感じそうな時はマスクをしている子にも外すよう促しているといいます。

寄り添い方に工夫を
藤女子大・吾田富士子教授(保育学)の話

濃厚接触の避けられない保育現場では、日々大変な苦労をしていることと思います。

子どもが抱っこを求めていたら、その気持ちを優先するのは当然ですが、信頼関係ができていれば「常に抱っこ」ではなくても良いかもしれません。絵本をそばに置いて一緒に楽しい時間を過ごすなど、子どもの発達に応じてどんな寄り添い方ができるのか、いま一度考えてみても良いと思います。

「アフターコロナ」を視野に、新しい生活様式と保育士の働き方改革を両立させることも、今後の課題です。非接触型の体温計や事務作業の電子化など、デジタルの活用も負担軽減の一つの方法でしょう。

日本の保育所は開所時間が長く、3歳以上は1クラス20~30人と集団が大きすぎることも、長期的には見直しが必要です。少人数のグループなら、接触する子どもの数を減らせるし、子どもも安心して過ごしやすい。過剰に「密」を生まない環境づくりが求められます。

取材・文/酒谷信子(北海道新聞記者)

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