新生児聴覚スクリーニング検査 道内実施率、全国で最低

機械を耳に当てて検査を受ける新生児=札幌市中央区、NTT東日本札幌病院

機械を耳に当てて検査を受ける新生児=札幌市中央区、NTT東日本札幌病院

生まれてすぐの赤ちゃんに難聴の疑いがないか調べる「新生児聴覚スクリーニング検査」に関する日本産婦人科医会の調査で、道内の医療機関での検査実施率などが全国で最低だったことが分かった。調査は2016年度の実施状況が対象で、道内は分娩(ぶんべん)可能な医療機関(91施設)のうち53施設が回答した。検査が実施可能と答えた医療機関は81%(43施設)。53施設で生まれた赤ちゃんへの検査実施率は73%と、いずれも全国の都道府県で最も低かった。

早期発見、適切な療育重要

先天性の難聴は千人に1~2人とされ、早期に見つけて適切な療育を受ければ、聞いて話す力を身につけやすいとされる。

専門医は「言語の発育のためには、早期に療育訓練を始めることが望ましい。誰もが検査を受けられる仕組みが必要だ」と指摘。厚生労働省も「全ての新生児を対象として検査を実施することが重要」とし、市区町村に対して、保護者への受診勧奨や母子健康手帳を活用した啓発などに努めるよう通達を出している。

同検査は、難聴の有無ではなく、精密な検査が必要かどうかを判断する。音を聞かせて脳の反応をみるものと、内耳から返ってきた反響音を調べる検査があり、新生児が眠っている間にヘッドホンのような機械を当てて、5分程度で測定できる。

分娩(ぶんべん)できる医療機関で、生後2日から退院前までの間に行われることが多く、精密検査が必要と判断された場合、専門の耳鼻咽喉科で難聴の有無や程度について調べる。診断が確定すれば、ろう学校などで補聴器を装用して療育を開始する。

日本産婦人科医会は17年の6、7月に、全国の分娩が可能な医療機関2369施設を対象に、16年度の実態について調査した。

1795施設から有効回答が寄せられ、このうち94.3%が16年度に検査が実施可能だったと答えた。都道府県別では23県が100%と回答するなど、多くの都県が9割を超え、85%以下は北海道だけだった。

新生児への検査実施率については、北海道以外で80%未満だったのは、神奈川(73.4%)、香川(74.9%)、千葉(75.2%)、京都(75.5%)の4府県のみで、北海道は、そのいずれも下回った。

札幌禎心会病院聴覚・めまい医療センターの氷見徹夫センター長は、道内で検査が普及しない要因について《1》難聴の早期発見・療育の重要性の認知不足《2》検査機器が高額で、分娩数の少ない施設では整備しにくい《3》自治体と医療・療育機関の連携不足―などを挙げている。

氷見センター長は「生後3カ月までに精密検査で正確な聴力評価をし、生後6カ月までに補聴器を使って脳へ音の刺激を届けてあげることが望ましい。早期診断、早期療育は言語発達などの面でその子の将来に大きな可能性をもたらす」とした上で、「多職種が連携し、検査を受けられない新生児をなくすようなシステムづくりが急務だ」と話している。

同検査は任意で保険適用されず平均5千円かかることから、検査を望まない親も少なくない。国は検査の補助にかかる費用について、自治体の裁量で使える地方交付税で交付し、市町村単位で公費負担に取り組むよう通知している。

道は、昨年度から市町村の担当者向けに研修会を開いたり、道のサイトにリーフレットを公開するなどして普及に力を入れる。昨年末には厚労省が、都道府県で協議会を設立し、地域ごとに難聴児の対策を進めるよう通知。市町村には公費負担に積極的に取り組むよう求めた。

道子ども子育て支援課によると、昨年9月現在で8市町村のみが公費負担を行っていたが、今年4月からは30市町村が新たに負担を始めた。同課は「実施率向上に向け、本年度も自治体向けの研修などを通し、引き続き検査の重要性を訴えていきたい」と話している。

取材・文/根岸寛子(北海道新聞記者)

公費負担している道内の自治体(計38市町村)

苫小牧市、網走市
【後志管内】泊村、寿都町、黒松内町、共和町、神恵内村
【胆振管内】壮瞥町
【日高管内】様似町、浦河町、えりも町、平取町、新冠町
【宗谷管内】枝幸町、猿払村、浜頓別町、利尻町
【オホーツク管内】滝上町、斜里町、清里町、小清水町、大空町
【空知管内】南幌町、沼田町
【渡島管内】知内町
【上川管内】愛別町、上川町、美瑛町、剣淵町、下川町、音威子府村、占冠村
【留萌管内】増毛町
【十勝管内】士幌町、広尾町、足寄町、陸別町
【釧路管内】鶴居村

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