• 転勤制度、見直す動き 会社都合での転地廃止/社員が希望エリア選択 道内外の企業

    会社都合の転勤を原則廃止にしたAIG損保。希望した札幌支店で昨年12月から働く山田支店長

    道内外の企業で転勤制度を見直す動きが始まっている。共働きや育児・介護をしながら働く人が増え、転勤を前提とした働き方が難しくなってきたことが背景にある。先行する企業は制度見直しで、人材確保や定着率、働く人のモチベーションの向上を戦略的に狙う。専門家は「『辞令一つでどこへでも』が慣例だった転勤制度は曲がり角にきている」と指摘する。

    子の成長見られる

    「子どもの成長を見られる生活を、しばらく続けられるのは、ありがたい」。AIG損保(東京)の札幌支店長を務める山田康文さん(49)は、同社が今年導入した人事の新制度を先行利用する形で、昨年12月、山形県内の支店から希望する札幌勤務となった。

    これまで会社都合の辞令の度に、妻と3人の子どもと全国各地を転勤したが、子どもの高校受験を控え、定住先を妻の実家もある札幌にし、自身は単身赴任で働こうと家族で話し合っていた時だった。「希望地を聞いてもらえるのは将来設計しやすい」と喜ぶ。

    AIG損保は4月から会社都合による転居を伴う転勤を原則廃止とした。これまで営業など4千人が3~5年ごとに全国200拠点を転勤していたが、育児や介護、病気療養などで「転勤は難しい」と退職する人が近年目立ち始めたのが導入のきっかけだ。

    新制度では、社員が希望エリアを選ぶことができ、エリア内で勤務する「ノンモバイル社員」か、それ以外で勤務する可能性もある「モバイル社員」かを選ぶ。給与体系は同じで、選択を変えることも可能。ノンモバイルは該当社員の75%が選択したという。

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    親との同居や病気

    人気エリアに人が集中し、人員が埋まらないところには、モバイル社員を配置して対応する。希望エリア外で働く場合のみ、住宅補助や特別手当を支給して報いる。今後は地方での現地採用も広げる方針で、同社人事部は「新制度により就活生や中途採用希望者の問い合わせも増えた。今の時代に合った働き方の見直しをしなければ離職リスクを高めるだけだ」と話す。

    他の企業でも、人材の確保・定着に役立てようと、育児休業明けにどこで働くかを希望できたり、一定期間は断ることができるなど、転勤制度を柔軟な運用に変えるところが出ている。

    この動きは道内企業にも広がる。北洋銀行は16年、勤務地を限定して働ける「地域総合職」を導入した。賃金は転勤を前提とした総合職と比べ1、2割低いが、現在、全行員3100人のうち880人が選択。うち9割が女性で、配偶者や親との同居、病気などが選択理由として多いという。

    手稲中央支店の角田麻依子さん(35)もその1人。同僚の夫との結婚を機に2年前に総合職から地域総合職に変えた。これまで転勤を理由に退職する既婚の女性行員をみてきたため「私も夫と一緒に暮らすには退職しかないのかと考えていた。働き続けたかったので、この制度は助かった」。同行には、配偶者の勤務地の近くに異動できる「夫婦帯同転勤制度」もあり、現在62組が申請。角田さんも、総合職の夫が転勤となれば利用するつもりだ。「安心して働けるのは制度のおかげ。そう思うと仕事への意欲も高まる」と話す。

    ほかにも、コープさっぽろや伊藤組土建など、転勤のない働き方が選べる制度を導入する道内企業は増えつつある。

    公平な仕組み大切

    政府の働き方改革実現会議の有識者議員を務めた相模女子大客員教授の白河桃子さんは「日本の正社員は、終身雇用と引き換えに転勤を受け入れるのが前提だった」と話す。だが、終身雇用は見直され、共働きが一般的となる中、子育てや家庭生活を継続していく上で、転勤がリスクだと考える人が増えているという。

    白河さんは「転勤制度を含む働き方が、優秀な人材を集める際の競争力になる時代。転勤制度をすぐになくせなくとも、期間を定めたり、事前に承諾を得たりするなどルールを明確化し、さまざまな立場の社員が不公平感を抱かない仕組みにすることが求められる」と話している。

    取材・文/根岸寛子(北海道新聞記者)

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