障害ある子もない子も同じ教室で学ぶ「インクルーシブ教育」って何?

障害がある子もない子も同じ教室で学ぶ「インクルーシブ教育」を知っていますか。国際的にはインクルーシブ教育が主流となっていますが、日本では分離された場で学ぶ子どもが増えています。国連は2022年9月、日本政府に現状を改善するよう求める勧告を出しています。インクルーシブ教育について考えました。(北海道新聞報道センター 光嶋るい)

障害の有無や重さにかかわらず、ともに学ぶ

インクルーシブ教育は、障害の有無や重さなどにかかわらず、全ての子どもが地域社会から排除されずにともに学ぶことができる教育のことを言います。国連の障害者権利条約でもうたわれています。2006年の国連総会でこの条約が採択されたのを契機に、日本の国内でも注目されるようになりました。日本はこの条約を2014年に批准しました。

障害者権利条約24条は、インクルーシブ教育システム(inclusive education system)について、人間の多様性を尊重した上で、障害のある人が精神的・身体的な能力を可能な限り発達させ、社会に参画することを可能にすることが目的と規定。障害のある人が、教育制度から排除されないこと、自分が暮らす地域で初等・中等教育の機会が得られること、個人に必要な「合理的配慮」が提供されることなどが必要とされています。

障害者権利条約

障害者の権利を守り、差別を禁止するために国が取り組むべきことを定めた条約。「私たち抜きに私たちのことを決めないで」を合言葉に障害者が参加して作り、2006年に国連総会で採択、2008年に発効した。外務省によると、2022年6月現在、185カ国・地域が締結している。締約国は2年以内に国内の政策を障害者権利委員会に報告。その後、権利委が条約を守っているかどうかを定期的に審査、勧告する。

本人や保護者の意見、最大減尊重が必要

日本の現行制度では、障害の程度や特性に応じ ①特別支援学校への通学 ②一般の小中学校に設置される特別支援学級への在籍 ③小中の通常クラスに在籍しながら障害に関する指導だけ地域の拠点校などで受ける「通級指導」―といった選択肢があります。

特別支援学校は、専門知識を持った教員の指導を受けられ、就職に向けた職業訓練もあるといったメリットがある一方、将来の選択肢が狭まることや、遠方にある学校と自宅の往復で、地域とのつながりが薄くなるなどの懸念が指摘されています。

普通学級ではさまざまな子どもに囲まれ、実社会と近い環境で生活できます。障害の状態に応じて、校舎のバリアフリー化や学校生活を支援する人材の配置などの合理的配慮は学校や自治体の義務とされていますが、理解不足で希望する支援を受けられない可能性もあります。地元の小中学校内にある特別支援学級はその中間に位置づけられますが、近年は教員不足により経験が浅い教員が担当するケースが増えています。専門家からは教員の専門性を担保することが必要だとの声も上がっています。

市町村教育委員会は就学先の決定にあたり、本人や保護者に対して十分な情報提供をした上で、本人や保護者の意見を最大限尊重することを求められています。

ただ、少子化が進む中、特別支援学級や特別支援学校など、通常学級以外の場所で学ぶ子どもは増えています。道内でも同様の傾向にあり、北海道教育委員会によると2022年度、特別支援学級に通うのは1万8381人(2012年比2倍)、特別支援学校は、幼児を含み6016人(同1.2倍)で特別支援学級の数は4729学級(同1.4倍)に上ります。


*上の表で表示した各年の出来事*

・2007年 特別支援教育スタート
盲学校、聾学校、養護学校を特別支援学校に一本化。従来の特殊教育に代わり、障害児や支援を必要とする子どもたちなどの自立や社会参加に向け、一人一人の状況に応じた支援に重点を置くように

・2011年 障害者基本法改正
障害の有無にかかわらず「可能な限り共に教育を受けられるよう配慮」するなどと明記

・2013年 学校教育法施行令改正
障害のある子の就学先の決定を巡り、「原則として特別支援学校に就学」から「本人や保護者の意見を最大限尊重する」ように改められた

こうした現状を受け、国連の障害者権利委員会は2022年9月、障害者権利条約に基づき、日本に対して障害のある子どもが分離された場で学ぶ特別支援教育の中止などを求める勧告を初めて出しました。

勧告は、通常教育に加われない障害児がおり、分けられた状態が長く続いていることに懸念を表明。分離教育の中止に向けて「インクルーシブ教育」に関する国の行動計画を作るよう求めました。通常の学校が、障害児の入学を拒めないようにする法を整備すること、教員対象の人権モデルの研修を行うことなども盛り込みました。また、特別支援学級に在籍する児童生徒に関し、通常学級で学ぶ時間を原則として週の半分以内にとどめるよう求めた2022年4月の文部科学省の通知を撤回することも求めました。

文部科学省によると、通知は、特別支援学級在籍なのに、大半の授業を通常学級で受ける子どもが多数を占める自治体があったためだといいます。ただ、通常学級の子どもと一緒に授業を受ける時間数を制限するような内容だったため、文部科学省の通知は4月に出された当初から波紋を呼びました。

国は特別支援学級・学校の在籍者が増えていることについて、障害者権利委員会の審査の際に「本人と保護者の意思を最大限、尊重している」としましたが、当事者や支援団体からは「実態と違う」との声が上がっています。市民団体「どんなに障害が重くても地域の学校へ・連絡会議」(札幌)によると、各教委が行う就学相談で、普通学級に通う選択肢が示されない、進学先を決めつけられるなどの対応も珍しくないといいます。

国連の勧告に法的拘束力はありませんが、委員会は2028年までに改善を報告するよう求めています。永岡桂子文部科学相は勧告後の記者会見で「特別支援教育を中止することは考えていない」と述べました。

インクルーシブ教育の原点は、障害の有無を超えて単に同じ場所で学ぶだけではなく、学びの場から誰も排除しない、置き去りにしないことでしょう。

石狩管内の小中学校で35年間、特別支援学級の担当教員を務めた札幌大谷大の二通諭特任教授(特別支援教育論)は「インクルーシブ教育は子どもが障害がある人もない人も同じ社会にいることを知る原体験になる」と指摘します。ただ、教員の業務過多で子ども一人一人の特性に応じた指導が難しくなっていることなどから、普通学級から特別支援学級へ「避難」する子どももいるそうです。二通特任教授は「あらゆる子どもたちの学びたい、学校に行きたいという欲求に応えるために、少人数での学級編成や複数の教員で指導する体制整備など、教育を見直していかなければならない」と話しています。

精神科強制入院廃止も勧告

国連の障害者権利委員会の勧告はこのほか、精神科の強制入院を障害に基づく差別だと指摘し、強制入院による自由の剥奪を認めている全ての法的規定を廃止するよう求めました。

精神科の全ての入院患者について、必要性をチェックすることも盛り込んでいます。入所施設で暮らす障害者が依然として多いことから、地域社会で自立した生活ができるよう政府の予算配分を変えるよう求めました。

2016年に起きた相模原市の障害者施設殺傷事件にも言及。日本社会の優生思想や能力主義に起因しているとして、事件を検証することも盛り込んでいます。

青野さん 高校で学ぶ目標かなえる

ダウン症で知的障害がある青野洸夢(ひろむ)さん(21)=札幌市在住=は恵庭南高(恵庭市)の定時制4年生です。札幌市内の小中学校在校時には普通学級で学び、浪人を経て高校で学ぶ目標をかなえました。自分のペースで、ゆっくりと学ぶ喜びをかみしめています。

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