幼保無償化2カ月 保育の「質」課題残る ジャーナリスト・猪熊弘子さんに聞く
2019/11/22(写真はイメージ=PhotoAC) 10月の幼保無償化のスタートから、2カ月近くがたちました。幼稚園や保育所の3~5歳児の利用料が原則無料となる一方、保育士の人手不足など、保育の「質」に関わる課題は積み残されています。「保護者も知識を得て、“自衛”を」と促すジャーナリストの猪熊弘子さん(54)=東京都在住=に話を聞きました。保育士不足/安全面に懸念
――幼保無償化を、どう評価していますか。
「今回の無償化は『子どものため』ではなかったと思います。無償化に伴い、経済的に余力のある世帯も無料となる一方で、国は保育の公定価格(保育所に支払われる運営費)を引き下げようとしました。公定価格の引き下げは、質の低下に直結する。結局取り消しましたが、国がいかに質を軽視しているかが分かりました」
――保育の質の課題は、どのようなところにありますか。
「安全面で言うと、2004年から16年までに、少なくとも190人もの子どもが保育施設で亡くなりました。国の規制緩和で企業参入が増えた01年以降、認可保育所でも死亡事故が増えました。うつぶせ寝で就寝中や食事中の窒息、プール遊びでの事故などです」
いのくま・ひろこ 横浜市生まれ。名寄市立大特命教授、東京都市大客員教授。保育士。国内外の保育・教育制度を研究する。双子を含む4人の子の母。 ――道内の幼稚園や保育所でも骨折などのけがをする子どもは増えています。
「事故は、保育者が人手不足のために子どもから目を離す時間が長かったり、経験不足の場合などに起きている。もちろん子どものことをしっかり考えている企業もありますが、『保育はもうかる』という意識で参入する企業が多いことも背景にあると思います」
「非正規の保育士が増えていることも課題です。現場では綿密なチームワークが必要なのに、結婚や出産で退職したベテランが非正規として再雇用され、若手の正規職員との間に心理的な距離が生まれ、情報が共有されていないケースが目立ちます」
――近年は待機児童対策で、認可外の「企業主導型保育所」が急増しています。
「国が認可外の開設を進めるのは、本来おかしな話。海外では『認可されていないのに、なぜ子どもを預かることができるのか』と不思議がられます。認可外は認可への移行を進め、一律の基準に沿って質を保証するべきでしょう」
――著書の中で、「良い園の見分け方」を紹介しています=表=。認可外保育施設への立ち入り調査は、自治体が原則年1回以上行うこととなっていますが、17年度の道内の実施率は48%でした。
「調査の実施率が低かったり、情報開示が不十分な自治体もある。保護者も声を上げ、保育に高い質を求め続ける社会的なコンセンサスを作っていくことが大切です。調査結果を見る時は保育者の人数や有資格者数、衛生面の指摘など、子どもの命に関わるような項目で指摘を受けていないか、注意すると良いでしょう」
取材・文/酒谷信子(北海道新聞記者)
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