• 着床前診断に新たな動き 遺伝病診断基準審議会で検討 流産予防臨床研究対象を拡大

    体外受精した受精卵に特定の病気に関する遺伝子や染色体に異常がないかを調べる「着床前診断」を巡り、新たな二つの動きが出ている。これまで命に関わる病気に限っていた遺伝病の診断基準などを検討する倫理審議会の設置と、不妊治療での流産予防を目的とした臨床研究の対象拡大だ。異常のない受精卵を選んで子宮に戻す着床前診断は、期待する患者がいる一方、病気や障害のある人の排除につながりかねないとの批判もある。

    着床前診断は目的別に《1》子どもに重篤な病気が遺伝するのを防ぐ(PGT―M)《2》夫婦いずれかに染色体の構造異常があるため繰り返す流産を防ぐ《3》不妊患者の流産リスクの低減と妊娠率向上(PGT―A)―の三つに分類される=表=。

    1990年ごろから海外で普及し始め、国内では日本産科婦人科学会(日産婦)が98年に「見解」を発表し、重篤な遺伝病の子どもを出産する可能性のあるカップルに限り、実施を容認した。その後、染色体の一部がちぎれて入れ替わるなどの構造異常がある夫婦も対象に加えられた。

    導入当初から国による指針作りを求める声があったが、国が動くことはなく、日産婦が申請1例ごとに審査して、実施の可否を決めている。

    流産予防を目的にすべての染色体の数の異常を調べる着床前診断は「着床前スクリーニング」とも呼ばれ、欧米では不妊治療の通常の検査として広く行われている。国内では日産婦が見解で禁じてきたが、日本人の不妊患者の流産リスクを減らせるかなどを検証するため3年前、臨床研究の実施を決定。道外4施設で約70人に行われたが、症例数が少なく、効果がはっきりとわからなかった。

    このため日産婦は実施する医療機関を増やし、9月中にも臨床研究を本格的に始めることにした。体外受精で2回以上連続して妊娠しなかった人や、原因不明の流産を2回以上経験した人などが対象で、これまで35~42歳に限っていた年齢制限を撤廃するなど条件を大幅に緩和する。期間は21年3月末までで、数千人規模のデータを集める計画だ。

    実施施設は遺伝カウンセリングの体制や体外受精の治療経験など一定の基準を満たした登録施設から選び、道内では札幌医大病院や神谷レディースクリニック(札幌)など複数の施設が参加申請する見込みだ。

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    また日産婦は8月31日の理事会で、子どもへの重篤な病気の遺伝を防ぐ着床前診断について、今秋にも外部の専門家も加えた倫理審議会を設け、診断基準や審査のあり方などを改めて議論することを決めた。

    重篤な病気とは「成人になるまでに死亡」「治療法がない」などと考えられてきたが、失明の恐れのある遺伝性の目のがん「網膜芽細胞腫」の患者から申請があったのがきっかけだ。この病気は生命に関わることはまれだが、日常生活が大きく損なわれる。

    ただ実施を認めれば、今後、同様の遺伝病の患者からの申請が増える可能性もあり、日産婦では意見が割れて結論が出せない状況になっていた。倫理委員会の三上幹男委員長(東海大教授)は「重篤な病気の線引きはどこか。法律や倫理の専門家、患者の意見も公の場で聞きたい」と話した。

    一方、着床前診断にはさまざまな倫理的問題がある。カップルに自然妊娠する能力があっても体外受精が必要になることや、受精卵の一部を傷つけて細胞を取り出すことによる、生後の子どもに与える長期的な影響は明らかではない。さらに受精卵の段階で異常がないか選択することへの生命倫理的な議論もなされている。

    着床前診断の推進派は「(妊婦の血液や羊水から胎児の染色体異常を調べる)出生前診断の結果から生じる妊娠中絶より、女性への身体的精神的負担は少ない」「受精卵はまだヒトではないので『命の選別』ではない」「通常の不妊治療でも形態の良い受精卵をすでに選別している」などと主張。これに対し反対派は「生まれる可能性のある受精卵まで排除される」「受精卵の選別自体が『命の選別』」「重篤なら生まれなくて良いのか」などと指摘している。

    取材・文/根岸寛子(北海道新聞記者)

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