長所を見てくれた先生お手本に イラストレーター なかいれいさん

な​か​い​れ​い​さ​ん​(​中​村​祐​子​撮​影​)​

道内ゆかりの著名人に、自身の学生時代や、子どもたちへのメッセージを語ってもらうインタビュー「伸びゆく君へ」。今回紹介するのは、子どもたちに人気の絵本「おばけのマ~ル」シリーズでイラストを担当する、なかいれいさん=札幌市在住=。どうやって好きな仕事を見つけたのか。子どもたちに伝えたい思いとは?(聞き手・鹿内朗代)


「まるやま」の頂上に住んでいる無邪気なおばけのマ~ルの交友を描く絵本シリーズ「おばけのマ~ル」(中西出版=札幌市)のイラストを担当している。今年2月に9作目が発行され、すっかり人気者のマ~ル。白くて丸い顔と体、つぶらな瞳が特徴だ。

「マ~ルを描くのは簡単だと思われるかもしれませんが、目や口のバランスが少し変わるだけで全く違う顔になるんです。シンプルだからこそ難しい。机に置いてある『基本のマ~ル』を見ながら、何度も描き直します。札幌を拠点にフリーのイラストレーターとして活動していて、絵本のほかに、定期刊行物や小冊子のイラストの仕事もいくつか手がけています」

幼少時から絵を描くのが好きで、中学時代はアニメサークルに所属。理数系の勉強が得意で、先生や親に勧められ函館中部高に進んだ。部活動を選ぶ時、美術部を見学したが皆絵が上手で、気後れしたという。

「球技は苦手だったのですが、友人に誘われて卓球部に。練習は厳しかったですね。ラリーを100回続けた人から帰宅できる、とか。私と組んだ人はなかなか帰れませんでした。3年になっても部員の中で一番下手。でも辞めるのは悔しくて、引退まで続けました。そんな私に、顧問の先生はいつも『サーブがいい』とほめてくれた。良いところを見つけてくれる先生の指導は、人への関わり方のお手本になりました」

高校時代の成績は振るわなかったというが、将来の就職のためにとにかく大学に行こうと考えた。理数系は相変わらず好きで、2次試験の科目が数学と英語だった小樽商科大を目指した。

「無理だと言う先生もいましたが、背中を押してくれた先生もいました。結果は合格。大学では経営理論やマーケティングなどを学びました。『絵が好き』という思いがあったので、就職活動ではデザイン関係の仕事を希望しましたが、入社を希望した広告代理店の採用担当窓口で『あなたの大学からはマーケティング部にしか採用しない』と言われて。『絵は趣味でやるしかないか』と落ち込みました。結局、大手システム会社に就職しました」

会社での仕事は、オフィスコンピューターの使い方を他社の社員に教えること。得意ではない分野で働く中で、日々の生活に楽しみを感じられなくなっていったという。

大学の卒業式の日の写真です。社会人になることへの不安もあった時で、何だか悲しげな顔をしています。 やりたいことや、自分への自信があった訳ではなく、とりあえず就職したというぼんやりとした感じでした。

大学の卒業式の日の写真です。社会人になることへの不安もあった時で、何だか悲しげな顔をしています。 やりたいことや、自分への自信があった訳ではなく、とりあえず就職したというぼんやりとした感じでした。

「29歳の時、書店で『イラストレーション』という本を手に取り、心がひかれるのを感じました。そんなある日、友人に『人生を一日に例えると、20代の私たちはまだ午前9時前だよね』と言われて。9時と言えば会社でコーヒーを飲んで、さて頑張るか、と思っているころ。今からならきっとやれる、と思いました。30歳で退職し、1年間イラストを独学。札幌市内でデザイナーの募集があったので自分のイラストを持参して面接に行きました」

結局採用にはならなかったが、これを足がかりにイラストの仕事が少しずつ増えた。中高生には「思い思いに咲く花であれ」というメッセージを送る。

「面接の後、今考えると非常識ですが、毎日のようにその担当者に『何か仕事ありませんか』と電話です。仕事を紹介してくれることもありました。広告代理店にイラストを持って行ったり、アートディレクターのところに通い詰めたりもしましたよ。誰にでも、これが好きだな、というものがあると思います。自分を信じて、その気持ちを大切に前向きに世の中に出ていってほしいです。恥ずかしくても大丈夫。失敗してもいつかは笑い話です」

(2019年6月25日付 北海道新聞朝刊掲載記事)

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