• キラキラネームはどこまでOK? 「戸籍に読み仮名」で中間試案

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    戸籍の氏名に読み仮名を付けることを柱とした戸籍法改正に向け、法務大臣の諮問機関「法制審議会」の戸籍部会が2022年5月、中間試案をまとめました。戸籍の氏名については漢字の記載が基本となっています。中間試案は氏名の漢字と読み仮名の関連をどの範囲まで認めるか-という点を巡って、3案を提示しています。漢字本来の読み方から外れた「キラキラネーム」がどの程度認められることになるのでしょうか。中間試案の具体的な内容や、今後の流れなどについて、札幌弁護士会の吉崎佑紀弁護士に解説してもらいました。(聞き手・梶山征広)

    出生届にはあるけれど、戸籍にはなし

    ―戸籍に氏名の読み仮名が登録されていないことを初めて知りました。役所への届け出で読み仮名を書いた記憶があるのですが…。

    現行の戸籍法では、氏名の読み仮名は、戸籍の必要的記載事項とはされていません。確かに、市区町村に出す出生届などには氏名の「よみかた」欄があり、住民票に読み仮名を記載している自治体は多くありますが、戸籍には記載されてきませんでした。

    氏名+読み仮名 給付金支給が効率的に

    ―そもそもなぜ、戸籍に氏名の読み仮名の記載を追加する必要性があるのでしょうか。

    氏名の読み仮名に関する今回の法制化の動きは、行政手続きのデジタル化をさらに進め、利便性を向上させることが大きな狙いとなっています。行政をはじめとする公的機関の情報システムで人物を検索する際、漢字より仮名の方が特定しやすく、効率的に作業を行うことができると考えられます。また、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、給付金の支給など、国民サービスの拡充の必要性が高まっていることも、この流れを後押ししています。一方、マイナンバー制度との関係もあり、政府による個人情報管理が強まることを懸念する声があるなど、反対意見もあります。

    ―読み仮名の追加を巡っては、随分前から議論が重ねられてきたようですね。

    議論は、政府の各種審議会などで50年近く続いてきました。記録が残っている限りでも、1975年、81年、2017年と検討が重ねられ、今回に至ります。「氏名の読み方が明確になるということは社会生活上便利になる」という考えに対し、「氏名にそぐわない読み方の登録は社会の混乱を招く可能性がある」という意見も根強く、過去3回の議論では、結論をまとめられませんでした。

    このような経過をたどってきたのは、日本語の特性が大きく関係しているのではないでしょうか。「表語文字(表意文字)」である漢字と、「表音文字」である仮名を併せ持っていることと、人名においては漢字と仮名の対応が緩やかに認められてきたことが、議論を難しくする要因の一つだったと思います。今回の試案はこれまで先送りにしてきた課題に、一定の方向性を初めて示したことになります。

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    ―中間試案のポイントを教えてください。

    今回の中間試案は大きく分けて3点について、基本的な考えをまとめています。1点目に、戸籍の記載事項として、氏名だけではなく氏名の読み仮名を追加する考えが明示されました。表記方法は、出生届などで基本となっている「ひらがな」とするのか、データ通信容量が少なくて済むという「カタカナ」とするのか意見が分かれています。その上で、読み仮名の許容範囲について、3つの案を挙げています。2点目は読み仮名の収集について、3点目は読み仮名の変更についてそれぞれ、方法が示されました。

    ―読み仮名の許容範囲について示された3案はそれぞれ、どのような内容なのでしょうか。

    読み仮名の範囲として示されたのは<1>戸籍法には規定を設けず、権利の乱用や公序良俗に違反しない限り認める<2>権利の乱用や公序良俗に違反しないという条件のほか、漢字の普通の読み方や慣用的な読み方、または字義に関連性があれば認めるという規定を設ける<3><2>に加えて、法務省令で定めるものを届け出た場合に認める-の3案です。

    規定が一番緩やかなのは<1>ですね。<2>が最も厳しく、<3>が中間になります。<3>の「法務省令で定めるもの」としては「朝」を「とも」と読む名乗り訓や、パスポートに記載済みなど、社会的に通用しているケースが想定されます。

    「海(マリン)」「光宙(ピカチュウ)」 想定できる読みならOK

    ―3案の状況から、どのような「キラキラネーム」が認められことになりそうですか。

    報道などによりますと、最も厳しい<2>のケースでも「海(マリン)」「光宙(ピカチュウ)」「大空(スカイ)」などは認められる見通しとなっています。字義との関連性があるということですね。

    ―逆に、認められないのはどのようなケースが考えられますか。

    いずれの案においても、子どもの人権を冒とくする名前や、差別用語、ひわいな言葉を使うケースなどは認められないでしょう。

    また、<2>や<3>の場合には、漢字から見て全く想定できない読み方も認められないでしょう。例えば「鈴木」を「さとう」と読んだり、「太郎」を「はなこ」と読んだりする場合です。法務省の研究会の取りまとめでは、届け出が認められなかったものとして「高」を「ひくし」という読むケースなどを挙げています。

    ―過去には「悪魔ちゃん」命名問題があり、社会的に大問題となりました。

    子供を「悪魔」と名付けようとした事案ですね。この問題を巡っては、男の子の父親から名前を「悪魔」とする出生届を受けた東京都昭島市が1993年、いったんこれを受理したものの、後から名前が妥当でないとして戸籍の名前の記載を抹消したため、父親が家庭裁判所に不服を申し立てる事態になりました。東京家裁八王子支部は1994年1月、「悪魔」という名づけを命名権の乱用に当たると判断する一方、届け出を受理した昭島市が法定の手続きを経ずに名前を抹消することは許されず、受理した名前を戸籍へ記載すべきとの審判を下しました。昭島市はこの決定を不服として東京高裁に抗告しましたが、最終的に父親が改名を受け入れ、問題に決着がついたそうです。余談ですが、「悪魔」と名付けられたのは、私と同い年の男の子のようです。読み仮名の問題とは少し離れますが、今後も、「悪魔」はもちろん、「死神」などの命名は、権利の乱用として、認められないでしょう。

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    もう戸籍がある人 いずれ届け出が必要

    ―氏名の読み仮名の集め方についてですが、既に戸籍に登録されている人はどんな手続きが必要になるのでしょうか。

    氏名が初めて戸籍に記載されることになる赤ちゃんや、帰化した人、氏や名が変わる人などは、届け出の際の記載事項に読み仮名が加わります。既に戸籍がある人の場合は戸籍法改正後の一定期間内に、市区町村に読み仮名を届け出る形になります。中間試案では、届け出先は戸籍がある市区町村となっていますが、居住している市区町村を加えることも検討されています。戸籍がある人が一定期間内に届け出なかった場合は、市区町村長が職権で読み仮名を記載するという考えが示されています。職権記載にあたっては、読み仮名が複数想定される場合にどうするか、職権で記載した読み仮名が実際の読み仮名と異なる場合にどのように訂正するのかなど、引き続き検討が必要とされています。

    ―読み仮名の変更方法については、どんな考えが示されましたか。

    氏の読み仮名は「やむを得ない事由」、名の読み仮名は「正当な事由」がある場合に家庭裁判所の許可を得て届け出るという規定が示されています。これは、現行戸籍法の氏名の変更と同様の文言です。「やむを得ない事由」の方がハードルが高く、氏についても読み仮名変更は「正当な事由」でよいとする案も出ています。これらの事由にあたり得るものとしては、珍奇・難読な場合や長年にわたって対外的に使い続けた場合などが考えられます。

    中間試案では、これに加えて、成人(18歳)になってから1年以内に届け出る場合など一定の場合には、家裁の許可を得なくても読み仮名の変更を認める案が示されています。名前を付けられる側の子どもの意思を尊重するという姿勢が根本にありますが、安易に変えられてしまうと社会的混乱を招きかねないとの意見も出されています。

    名前は親の権利か子供の権利か 考える機会に

    ―中間試案に対するパブリックコメントの募集が6月27日で終わりました。今後の流れについて教えてください。

    中間試案をまとめた法制審議会戸籍法部会が、パブリックコメントを踏まえて、要綱案の取りまとめに向け、引き続き審議を続けていく予定です。そして、2022年6月に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」によりますと、法務大臣の諮問に対する法制審議会の答申が出次第、2023年の通常国会に戸籍法改正案などの関連法案を提出し、2024年度を目途に制度をスタートさせることを目指しているようです。

    命名に関する権利については、法曹界の中でも、親権の一部という説と、子ども自身の権利という説に分かれています。いずれにせよ、人の氏名は読み方も含めて、それぞれの人のアイデンティティにかかわります。私たち一人一人が直接関係する大切な話でもあるので、今後の議論に関心を寄せてほしいと思います。

    吉崎佑紀(よしざき・ゆき)弁護士吉崎佑紀(よしざき・ゆき)弁護士
    1993年、渡島管内生まれ。北大法学部卒業後、2018年に北大法科大学院修了。合格を果たした同年の司法試験の受験直前には「北大構内のごみをたくさん拾って、運をためた」と振り返る。19年に札幌で弁護士登録し、藤田・荒木・村本法律事務所に現在所属している。22年から、札幌弁護士会の広報委員会や法教育委員会などの委員を務める。趣味は、3歳から高校時代まで学んだピアノ演奏とクラシック音楽鑑賞。

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