子どもの名付け、傾向は? 音から決める/「キラキラネーム」は敬遠、「和風」がトレンド/難しい漢字も

書店には親の願いを名前に込めるコツなどを紹介する名付け本が並ぶ=紀伊国屋書店札幌店(中村祐子撮影)

親から子へ最初の贈り物とも言われる名前。5月に法制審議会(法相の諮問機関)の部会が、戸籍の氏名に新たに読み仮名を付ける際、いわゆる「キラキラネーム」のような、漢字本来と異なる読み方をどこまで許容するか中間試案を示し話題になった。「簡単に読めない名前が増えた」と言われるようになってから、少なくとも約30年。最近の名付けの傾向はどうなっているのだろう。


5月下旬、札幌市中央区の子育て総合支援センターで、昨年6月に生まれた石田日々樹(ひびき)ちゃんがおもちゃで遊んでいた。母親の京子さん(41)=札幌市東区=が「夫が、読み方を『ひびき』にしたいと決めていた。一般的な『響』ではなく、『日々大きくなれるように』との思いを込めました」と教えてくれた。「キラキラネームは付けたくなかったので、読める漢字にしました」とも。

石田さんのように、まず音(読み方)を決めて、漢字を選ぶ名付けはこの30年ほどで主流になった。名付けを研究する京都文教大教授の小林康正さん(大衆文化史)によると、1990年代に名付け本が提唱し、「漢字の選び方で、人とは違う個性が表現できる」などの理由から支持され広まったとみられる。この頃から、難しい読み方をする名前がメディアなどで取り上げられるようになった。

法制審のニュースで再び注目を集めた「キラキラネーム」だが、小林さんによると「どんな名前を指すか、実は明確な定義は無いのです。世代や人によってだいぶイメージに差があります」。「キラキラ」との表現がメディアなどに登場するようになったのは、2009年ごろからだ。

戸籍法では、名前に使える漢字の定めはあるが、読み仮名の定めはない。「当て字」もOKで、簡単に読めない名前が増える背景になった。例えば、明治安田生命が毎年発表している人気ランキングで昨年女の子の2位になった「陽葵」は「ひまり」のほか、「ひなた」「ひより」など、いろいろな読み方をされている。

「最近のトレンドと言えば和風」と小林さん。以前は「月(るな)」「海(まりん)」など洋風の名前が人気だったが、「紬」(主につむぎ、女の子1位)、「凛」(同りん、女の子3位)などがランキング上位に入ってくるようになった。「キラキラとやゆされるのを避けて、和風の名前を選ぶ親が増えているのでは」

名付けや漢字に関する著書がある文筆家の伊東ひとみさんは、「漢字をフィーリングでとらえている」と指摘する。

昨年ランキング男子3位になった「蒼」(あおい、あおなど)を例に挙げると、この字は「倉庫に干し草をしまう様子」が成り立ち。「顔面蒼白(そうはく)」と使うように「生気の無い青色」という意味もある。それでも人気が高いのは「深い青という美しいプラスのイメージで選んでいるから」と伊東さんは分析する。

また、難しい漢字が好んで使われる傾向も。パソコンやスマホの普及により、難解な字が書けなくても「打てる」ことがハードルを下げた。「主に若い世代が、歴史的な読みや語源に縛られず、漢字を自由に使う価値観を持っています。今どきの名前に違和感を持つ人がいるのは、この感覚の違いが影響している」

札幌市豊平区の無職吉沢観太さん(95)は4月、ひ孫青央(あお)ちゃんが誕生した。初めて名前を聞いたときは、青に央を組み合わせる発想に若干驚いたが、すぐになじんだという。「孫夫婦が愛情を持って考えて付けた。いい名前だ」。毎日スマホに送られてくる写真を楽しみにしている。

改元、スポーツ選手…時代の出来事や空気感を反映

生まれ年別人気の名前ベスト5

明治安田生命の名前ランキングをさかのぼると、改元や皇室の慶事、スポーツ選手の活躍など、それぞれの時代の大きな出来事や空気感が、名付けに影響した様子がうかがえる。

明治から大正に元号が変わった1912年の男子のトップは「正一」。14年まで3年連続で1位の名前に「正」の文字が入った。昭和に変わると、27年(昭和2年)から「和子」が女子の名前1位に。以後、52年までの26年間で1位が23回、2位が3回と圧倒的人気を誇った。

37年(昭和12年)に日中戦争が勃発。男子は「勇」「勝」「勲」などが上位に入り、戦時下の空気を反映する名前が多くなった。

戦後、上皇さまと上皇后美智子さまが結婚した59年は「美智子」が女子の4位。60年に天皇陛下が誕生して称号が浩宮と発表されると、同年と61年には「浩」が男子の1位になった。


<取材後記>

「私の世代からすると、あなたの名前も珍しいわよ。昭和にはなじみない音の組み合わせ」と、伊東ひとみさんから言われ、驚いた。1998年生まれ、23歳の記者の名は「璃歩」と書いて「りほ」と読む。取材をきっかけに母親に由来を聞いてみた。

候補は20個ほどあり、母は響きがかわいいからと「くるみ」「みるく」を気に入っていたそう。父は2文字希望。「名字と合わせてはまる音だ」とまず、「りほ」に決まった。まさに記事で紹介した音から決めるパターンだ。

宝石の瑠璃から「輝く人になって」と願いを込めて漢字を選んだ、と改まって言われ、照れくさいような、うれしいような…。

取材・文/高津戸璃歩(北海道新聞記者)

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