出産事故で脳性まひ、補償対象拡大でも漏れ 「切り捨てられた子も救って」

加賀谷彩花ちゃん(左)のリハビリを見守る琴恵さん=札幌市(石川崇子撮影)

加賀谷彩花ちゃん(左)のリハビリを見守る琴恵さん=札幌市(石川崇子撮影)

出産事故で重い脳性まひとなった子どもに補償金を支払う「産科医療補償制度」の対象が1月から拡大されたことを巡り、補償から漏れる形となった当事者から救済を求める声が上がっている。新たな制度では、出産事故の有無を確認して対象になるか決める個別審査を「医学的に合理性がない」として撤廃した一方、過去の個別審査で対象外となった約500人の救済を盛り込まなかったためだ。保護者らは「問題があった過去の制度で切り捨てられてしまった子どもを救ってほしい」と訴えている。

「補償が出れば娘の将来の治療や備えに使えるのに」。脳性まひで運動機能などに障害がある長女彩花ちゃん(4)を育てる札幌市北区のパート従業員加賀谷琴恵さん(46)は、制度改定後も補償対象外のままになったことに肩を落とす。

加賀谷さんは妊娠31週で緊急の帝王切開手術を受け、彩花ちゃんと次女の双子を新生児仮死で出産。旧制度のもとで補償を申請して個別審査を受けたが、「分娩(ぶんべん)時の低酸素状態を示すデータがない」として対象外になった。

同制度は出産に伴って重い脳性まひになった子どもを持つ家庭に、看護・介護費として計3千万円の補償金を支払う。1月の改定前は、妊娠32週以上の分娩は原則対象とする一方、加賀谷さんのような28週以上32週未満の場合は個別審査を行い、低酸素状態だったかなどを確認していた。加賀谷さんは「緊急手術でデータが無かったかもしれないのに、納得できなかった」と振り返る。

脳性まひ児補償制度の変更点

親の会が要望書

1月からの新制度では、28週以上の分娩は原則対象となるため、妊娠31週なら補償を受けられる可能性が高くなった。ところが新制度は、加賀谷さんら過去の個別審査で対象外となった人への救済は盛り込んでいない。

加賀谷さんは次女にも心臓疾患と知的障害があって通院や施設通所が欠かせないため、働けるのは週3回のパート。「子ども用の車いすが乗せられる福祉車両を用意したいけど、生活だけで精いっぱい。将来には不安しかない」と漏らす。

制度の運営主体である日本医療機能評価機構(東京)によると、個別審査で対象外となってきたのは今月16日時点で540件。当事者の親は「産科医療補償制度を考える親の会」を設立し、昨年12月に厚生労働省と機構に救済を求める要望書を提出した。会の中西美穂代表(41)は「審査で落ちて、改定でも救済されない子は2度の苦しみを受けている」と訴える。

議論進む可能性

そもそも、個別審査の撤廃は、機構が2009~14年までの実績を分析し「99%が医学的に分娩に関連する脳性まひと考えられる事案でありながら、対象外となっていた」ことが明らかになったためだ。それでも厚労省は「個別審査の基準は、その時点の医学的知見や医療水準で決めていて審査結果に問題は無かった。さかのぼって新制度の適用はできない」と強調する。

ただ、後藤茂之厚労相は4月の参院予算委員会で、さかのぼっての適用の検討に言及し、議論が進む可能性も出てきた。医療過誤問題に詳しい堀康司弁護士(愛知)は「制度が不十分なものだったと分かった時に、過去に生じた不公平をただす議論も必要。さかのぼって適用できないなら、別な事業として補償を実現することも考えるべきだ」と話している。

取材・文/川崎学(北海道新聞記者)

産科医療補償制度

出産事故に関わる訴訟が産科医のなり手不足の一因とされたことから、訴訟回避や家族の負担軽減を目的に2009年に創設。公的医療保険から支払われる「出産育児一時金」などから民間の保険会社に掛け金を支払っている。先天性や早産による脳性まひは対象外。

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