コロナが変えたくらしの姿
「産む」の現場から 番外編|お産事情アンケート 減る交流の場、妊産婦に孤立感
「出産時の立ち会いなし」「家族の面会不可」「分娩(ぶんべん)時はマスク着用」―。北海道新聞がインターネットで行ったアンケートでは、新型コロナウイルス下で、妊娠・出産の現場の姿が大きく様変わりしたことが浮き彫りになった。感染不安などを理由に約1割が「妊娠計画の延期」「妊娠することにちゅうちょした」と回答。一方、多くの妊産婦たちは相談や交流の場が休止され、深い孤立感を抱えている。(東京報道 根岸寛子)
産前学級なく立ち会いもできず
「ワクチンの安全性や感染が心配。通常でも胎児がちゃんと育っているか不安なのに、さらに多くのことに気をつけなきゃいけないストレスがすごかった」。昨年10月に2人目を出産した帯広市の女性(32)はコロナ下での出産をこう振り返る。
妊娠した喜びも、産着を店でゆっくり選ぶ楽しみも味わえなかった。産院では出産の立ち会いも面会もできず、2人目が生まれた喜びを、夫と一緒にかみしめることができたのは退院後。「孤独だった。コロナ下の妊婦にはもうなりたくない」と話す。
北海道新聞が3月下旬に子育てウェブメディア「mamatalk(ママトーク)」で実施したアンケートでは、道内在住者を中心に20~40代の252人(妊娠・出産した本人242人、パートナー5人、その他5人)が答えた。
コロナ下での妊娠についてどう思い対応したか、妊娠中の心境を尋ねたところ(複数回答)、「ちゅうちょする気持ちがあった」と答えた人は11%、「妊娠計画を延期した」は3%だった。理由は「感染した時に無事に産めるのか不安」(恵庭市・女性31歳)、「ワクチン接種や感染した場合の胎児への影響が心配」(札幌市・女性34歳)などが多かった。
一方、ちゅうちょしなかった人は30%で、「年齢的にちゅうちょしている場合ではなかった」(日高管内・女性38歳)との声も寄せられた。
妊娠中は「かなり不安だった」が29%、「少し不安だった」は33%で、多くが不安を抱えていた。「あまり不安ではなかった」「不安ではなかった」はそれぞれ2%で、札幌市の女性(29)は「ワクチン接種したから」と理由を答えた。
妊婦健診の付き添い(単回答)は「可能ではなかった」が83%。「夫にエコー画像や心音を聞かせてあげられなくて残念」(札幌市・女性29歳)、子どもも付き添いNGの対象で「上の子を預ける場所を探すのが大変だった」(釧路市・女性30歳)。
両親教室などの産前学級(単回答)は、休止が55%。オンライン開催が18%、対面開催が14%だった。空知管内の女性(30)は「ほかの妊婦と話したくても交流する場がすべて中止となり、夫以外と会話することがほとんどなかった」と残念がる。
分娩時の感染対策はどうだったのか。昨年1月に出産した函館市の女性(30)は「個室だったので陣痛中はマスクを外していたけれど、看護師さんと会話する時は着用。出産時はつい外してしまう瞬間もあった。本当に苦しかった」と打ち明けた。
具体的な対策内容(複数回答)はマスク着用が80%で最多。定期的な検温53%、産婦の部屋から外に出ない20%、手袋を着けた4%―と続いた。自由記述欄で「入院時のPCR検査」(札幌市・女性32歳)と答えた人も少なくなかった。
アンケートは、立ち会いや面会についても、複数回答で聞いた。立ち会いが不可能だった人は44%、可能は29%で、医療機関によって対応に違いがあったことがうかがえた。出産直前や直後に時間を限定して会う方式だった人も一定数いた。
産後の産婦や赤ちゃんへの面会は「不可能だった」が88%、可能は12%。動画や電話をやりとりしたケースはそれぞれ22%あり、直接会えない“間”を埋める手段として活躍したようだ。
希望と不安、抱えながら〜アンケートより〜
アンケートでは、多くの人が自身の体験について、自由記述欄に書いてくれました。一部を紹介します。
■「コロナベビー」に意味
2020年に生まれた赤ちゃんを「コロナベビー」というそうです。初めて周りから言われた時は悲しみと怒りで震えました。「好きでこの時代に生んだわけじゃない、できることなら普通の時代に生みたかった」と。でも生まない選択肢はありませんでした。「やっと、おなかにきてくれた子。どんな時代だろうが必ず守る」と。この時代を選んできてくれたこと、絶対に意味があると思っています。思ったような妊娠・出産ではなかったけれど、いつか「あの頃は大変だったね」と笑って話せる日がくることを祈っています。(渡島管内七飯町・女性31歳)
■身体を優先し会社退職
1人目を妊娠するのに時間を要したため、2人目をすぐにでも授かりたかったのですが、妊婦は感染すると重症化しやすいとの情報もあり、何度も夫婦で話し合いました。2人目を妊娠した時、11年勤めた会社を退職しました。私の身体を優先することにしました。外出もほぼせず、できる範囲での感染対策をし、今まで感染せずに暮らしてきました。コロナがなければ子どもたちにいろいろな経験をさせてあげられたな…と思うことは多々ありますが、今は命が大切で、時がたって状況が変わったら、いろいろな経験をさせてあげたい。(旭川市・女性31歳)
■面会ない分ゆっくりと
3人目なので、立ち会い出産ができないことには特に何も考えてませんでしたが、初産の人は、かなり不安だろうなと感じました。コロナ下だからこそ、面会がなく、母子ともにゆっくり過ごせて、私は良かったと思いました。(札幌市・女性29歳)
■安全な出産には制限も
何よりも安全に出産できることが大切なので、医療関係者を守るため(=他の妊婦さんも安全に出産することにつながる)に、出産の立ち会いや面会の制限は、ある程度は仕方ないと思いました。(札幌市・女性38歳)
■病院のスタッフに感謝
コロナ以前より制約は多いですが、感染症は時代の流れで必ず繰り返すので、仕方がないと思います。安全な出産のために産婦人科のスタッフは大変な努力をしてくれており、感謝しかないです。(札幌市・女性29歳)
■働く妊婦へ支援もっと
感染者が増える中の通勤は怖く、初めての妊娠で、ただでさえ不安なのに、コロナ下で不安が倍増しました。マタニティーマークを見た人に「こんな時期に妊娠して」と言われたことも傷つきました。オンラインの産前学級など市町村のバックアップは充実していると感じましたが、時間や曜日が合わず、働く妊婦は受講が難しかった。コロナ下以外でもサポートの必要性を感じました。(札幌市・女性32歳)
■夫婦の絆の深まり実感
出産の立ち会いや産前学級などが出来なかったのは残念ですが、それはそれで思い出になったと思うし、子どもが生まれてきてくれた事に感動が薄れることはありません。逆に、こんな中、よく赤ちゃんは頑張って出てきてくれたなと思います。夫は分からないなりに知ろうとしてくれたので、夫婦の絆は深まったと思います。(旭川市・女性36歳)
■初対面の夫の顔忘れない
夫が立ち会い出産や面会に来ることができなかったのは残念でしたが、退院時に迎えに来た時、わが子に初めて直接会った、あの瞬間の顔を、私は一生忘れることはないと思いました。コロナ下で会えなかった故に見られた瞬間でした。(札幌市・女性37歳)
■話せる人いなくて孤独
1人目がコロナ前、2人目がコロナ下の出産でしたが、コロナ下は圧倒的に孤独でした。他の妊婦さんと知り合う機会もなく、入院中は家族との面会も禁止。上の子の時は家族や友達がお見舞いに来てくれて楽しい入院生活でしたが、今回は話せる人も誰もいなくて、寂しかったです。感染対策が大切だということは理解していますが、やはり妊婦の心の負担は大きいので、孤独にしないケアが必要だと思います。(札幌市・女性35歳)
■収束見えず妊活を再開
医療従事者で、コロナ治療に携わっているので、他の人よりも感染リスクが高いと考え、落ち着くまで妊活を中断しようと考えました。しかし、一向に収束の兆しが見えないので、このままでは妊娠適齢期を過ぎてしまうと考え、妊活を再開しました。昨秋に無事に妊娠しましたが、コロナ診療に疲れてしまった同僚が多く、仕事を辞めたり、別の業種に移ったりと、人手不足が続き、妊婦健診や体調不良時にお休みをもらうことが非常に申し訳なかったです。(札幌市・女性29歳)
■夫の在宅勤務で安心感
コロナ下の妊娠はメリットの方が多かったです。職場で飲み会や会食がなく、飲酒を断る必要がなかった。夫も在宅勤務ができたので自宅で1人でいるより安心でした。(札幌市・女性34歳)
■人に会えずつらかった
コロナ陽性となると帝王切開になってしまうと言われていたため、妊娠中は友人などにほとんど会えずつらかった。(十勝管内音更町・女性37歳)
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