• <コロナが変えたくらしの姿>「産む」の現場から(上)|妊婦の感染 分娩後すぐに母子分離

    「元気で明るい子に」。わが子を胸にほほえむ、コロナ感染中に出産した藤岡なつみさんと夫の翔太さん(村本典之撮影)
    新型コロナウイルスの感染拡大は妊娠、出産にも大きな影響を与えています。感染への恐れなどから妊娠を延期する「産み控え」という言葉が聞かれるようになり、出生数の減少に拍車をかける可能性が指摘されています。道内の出生数は、2020年の人口動態調査で過去最少の2万9523人、初めて3万人を割りました。新たな命を迎える「お産の現場」の動きを伝えます。

    「出産予定日まであと1週間なのに、なぜ今、感染…」。1月下旬、妊娠39週で新型コロナウイルスに感染した札幌市西区の藤岡なつみさん(30)は絶句した。2日前に会社員の夫、翔太さん(31)がPCR検査で陽性と判明。感染経路は分からなかった。濃厚接触者として受けたPCR検査で、なつみさんも陽性に。すでに微熱やのどの痛みの症状が出ていた。

    翌日、迎えにきた防護服姿の保健所職員が運転する車で、感染した妊婦の分娩(ぶんべん)を担う北大病院に運ばれた。到着して約2時間後の夜7時過ぎ、帝王切開で第1子となる男児を出産した。

    夫は自宅療養中。なつみさんは寂しさと不安を抱えながら、手術室で元気な産声を聞いた。赤ちゃんは感染対策ですぐ産科病棟の隔離室に移された。顔を見ることはできなかったが「無事に生まれてきてくれた」。安堵(あんど)の涙があふれた。

    当時、道内は感染「第6波」のさなか、新規感染者数が連日3千人前後の時期だった。妊婦の感染者も急増、お産の現場も逼迫(ひっぱく)していた。通常、妊婦は出産後1週間ほど入院するが、出産間際の妊婦の感染が相次いだため、なつみさんは帝王切開の2日後に、市内のコロナ対応病院に転院せざるを得なかった。赤ちゃんは濃厚接触者として別の病院に運ばれた。

    隔離ベッドが足りない緊急時のため、産科医とともに防護服姿の看護師(左)が、濃厚接触者である藤岡さんの赤ちゃんを抱え、近くの対応病院に歩いて搬送した(北大病院提供)
    隔離ベッドが足りない緊急時のため、産科医とともに防護服姿の看護師(左)が、濃厚接触者である藤岡さんの赤ちゃんを抱え、近くの対応病院に歩いて搬送した(北大病院提供)

    「感染した時点で赤ちゃんと隔離されるのは分かっていたけれど、入院場所も別々で家族とも会えず、心細かった」。支えてくれたのは周囲の医療者たちだった。転院先では防護服を着た看護師から「もうじき赤ちゃんに会えるよ」と励まされた。その後、赤ちゃんのコロナ陰性が判明。預け先の病院スタッフがくれる電話連絡で毎日の様子を知り、メールで送られてきた写真に思いを募らせた。

    なつみさんのコロナ症状は軽症のまま推移し、入院中に隔離期間を終えた。退院し、赤ちゃんの待つ病院へ。出産8日目にして初めてわが子を抱くことができた。授乳した時に「やっと母親になれた」と実感した。同じく軽症で自宅療養を終えた翔太さんも「病院から送られた写真をいつも見ていたけれど、実際はこんなに小さいのかと驚いた」。

    今、赤ちゃんは体重が1.5倍に増え、すくすくと成長している。なつみさんは「多くの人たちの連係によって、無事に新しい命を迎えることができた。本当に感謝しかない」

    道は道内の感染妊婦の数を「公表しない」(新型コロナウイルス感染症対策本部指揮室)としており、道内全体の状況は不明だ。関係者によると、オミクロン株が拡大した1月以降、妊婦の感染が急増したという。札幌市では、1月に111人、2月は290人、3月は180人と激増した。お産の現場は、今も緊迫した状況が続いている。

    札幌市の妊婦の感染者数の推移

    道央圏で感染中の妊婦の分娩を担う北大病院と札医大病院は1月以降、対応件数が急増したため、帝王切開し、翌日には転院とする緊急の対応を取っている。北大病院の馬詰(うまづめ)武医師(41)は「産後のケアが重要視される時代にこうした対応は、妊婦や家族にとって好ましい状況ではないが、対策にも限界がある。医療者は申し訳ない気持ちで日々、現場に立っている」と心情を明かす。

    感染中の妊婦の帝王切開の様子。感染対策のため医師も看護師も防護服で対応する(北大病院提供)
    感染中の妊婦の帝王切開の様子。感染対策のため医師も看護師も防護服で対応する(北大病院提供)

    高度治療を担う大学病院は、前置胎盤など一般のハイリスク分娩も受け入れており、「ベッドは常に綱渡りの状態」(北大病院)が続いている。馬詰医師は「コロナでお産の現場は大きく変わった。新しい命の誕生をどう迎えるか。家族にとって大切な経験だからこそ、今も現場では模索を続けている」と話す。

    取材・文/根岸寛子(北海道新聞 東京報道記者)

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