ぴったりの服、旅立つ赤ちゃんに 苫小牧の主婦が手作り、無償で提供 死産を経験、同じ思いのママへ届けたい

「天使のはぐの会苫小牧」が手作りした小さなベビー服。赤ちゃんを亡くした親に「赤ちゃんと一生分のはぐができますように」というメッセージを添えて贈っている

死産や流産などで亡くなった赤ちゃん用の手作りベビー服を無償で贈る活動を続けている主婦が苫小牧市にいる。自身が死産した時、赤ちゃんの身長は21センチ。市販品にサイズがなく、白いガーゼにくるんで火葬したことをずっと悔やんでいる。「同じ経験をした人が、少しでもかわいい服を着せてお別れができますように」。贈ったベビー服は約3年間で100着を超えた。

「産むか、人工死産するか、ご夫婦の考えはどうですか」。2016年7月、当時妊娠5カ月だった苫小牧市の高橋郁美さん(46)は、医師の問いかけに言葉を失った。

34歳で結婚し、40歳にして念願の子宝を授かった。この手に抱く日を楽しみに、おなかの子に毎日優しく話しかけた。でも、待っていたのは残酷な2択だった。胎児に染色体異常と心疾患が見つかり、医師は「おなかの中で死んでしまうか、生まれたとしても長くは生きられない」と言う。その上で、妊娠を続けるか、小さな命を終わらせるか―。

つらい決断

夫と何度も話し合った。病を抱えながら懸命に生きる人たちがいることや、わが子の生命力を信じたい思い。一方で、妊娠を継続して子に苦しい思いをさせてしまうつらさや、子が無事に生まれて大きくなった時に自分たちが面倒を見きれるのかという不安。気持ちは行ったり来たりを繰り返した。

「この子は自分で自分のことを決められない。命をどうするか決めてあげるのも親の責任じゃないかな」。夫のこんな言葉を聞いて、悩みに悩んで死産を選んだ。つらい決断だった。高橋さんは「これでよかったのか、今でもわからない」と話す。

陣痛促進剤を投与して生まれたのは、身長21センチ、体重195グラムの女の子。産声はなかった。出産の準備に手いっぱいで、着せる服を考える余裕はなかった。市販のベビー服は小さいものでも40~50センチ用。ぶかぶかの服を着せるのは、かわいそうでできなかった。病院から渡されたままの無機質な白いガーゼに包んだ状態で火葬した。心の中で「ごめんね」と繰り返しながら、ホチキスの針ほどの娘の骨を拾った。

死産から半年ほどたち、気持ちの整理のためにブログを書き始めた。買い物先で見かける家族連れ、近所の幼稚園から聞こえる運動会の練習の声…。いや応なく遭遇する子どもの存在と、どう向き合ったらいいかわからなかったからだ。

ブログを通じ、「天使のはぐの会」という団体をつくって亡くなった赤ちゃんのベビー服を病院などに贈る活動をしていた札幌市の女性と知り合い、子を亡くした親同士で語り合う「天使ママの集い」に参加した。普段は「子どものいない主婦」でも、ここでは自然と「ママ」でいられた。ちくちくと裁縫しながら娘の思い出を話すと、少しだけ心が楽になった。

依頼は増加

自分の住むまちにもこういう場があればと「天使のはぐの会苫小牧」を18年に立ち上げた。近郊から数人が苫小牧市内で2カ月に1回程度集まって、ベビー服を作るようになった。ベビー服は綿製で、大きさは10~30センチまで6種類。子を亡くした個人からメールで依頼を受け、週数や性別などを聞いて郵送している。

道内からの依頼は年に数件で、ほとんどが道外から。ネット上で認知度が高まったことで依頼は年々増えており、一日に複数届くこともある。「私はかわいい服を着せて娘を見送ることができなかった。ほかのママさんには同じ思いをしてほしくない。そんな私に、娘が『頑張れ』って言ってる気がするんです」

国の統計によると、国内の死産数は1万7278件(昨年)。小さなベビー服を必要とする家族が、これ以上増えないでほしい。でも今は、後悔や悲しみを優しさに変えて届けることが、「天音(あまね)」と名付けた娘への弔いだと思っている。

依頼や寄付金などの問い合わせはメール(104hug.tomakomai@gmail.com)で受け付けている。

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