• 2020/04/18

    妊婦・不妊治療者、高まる不安 新型コロナ感染拡大

    新型コロナウイルスの感染拡大で、道内の妊婦や妊娠を希望する女性たちの不安が高まっている。各学会などから「不妊治療の延期」や「働く妊婦の在宅勤務、時差出勤」を推奨する声明などが相次いで発表され、当事者からは「私にとって不妊治療は不要不急ではない」「在宅でできる仕事ではない」など悲鳴に近い声が上がる。(根岸寛子)

    治療延期推奨「少ない機会逃せぬ」
    妊婦の勤務環境「もっと配慮して」

     日本生殖医学会は今月1日、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、不妊治療を行う医師らに向け、治療の延期を患者に提案するよう推奨する声明を発表した。「妊娠すること自体が難しい人に、この声明はつらすぎる」。学会のホームページ(HP)で声明を読んだ江別市の会社員女性(39)は絶句した。2人目を希望し、5年前から不妊治療を続ける。これまで体外受精は10回以上行ったが、なかなか出産まで至らなかった。一般的に年齢が上がると妊娠率は下がるとされ、女性は「卵子の質の低下を時間経過とともに感じる。治療は40歳までと決めており、少しのチャンスも逃したくない」と切実な思いを口にする。

     声明では、感染した場合、妊婦に禁忌とされる薬剤などもあって治療に制約があることなどから、妊娠後の感染への対応に苦慮することが予想され、国内での急速な感染拡大の危険性がなくなるまで治療の先延ばしの提案を推奨している。道内の医療機関でも、患者に選択肢として治療延期を提示し始めたほか、外来を休止したところもある。

    治療延期の提案を推奨する日本生殖医学会の声明


     「不妊治療は時間との闘いでもあり、『不要不急』の治療には当てはまらない」と女性。声明は治療を禁止してはいないため、「このまま治療を続けたい」という。ただ、道内でもいまだ感染は広がっており、どうすべきか悩む。

     一方、感染を心配する妊婦は多く、日本産婦人科感染症学会は2月から、予防策などの情報をHPで発信。これを受け、厚労省も今月、働く妊婦の在宅勤務や時差出勤の配慮、休業時の手当支給などの体制整備を経団連などに要請した。だが、雇い主任せの色合いが濃く、妊婦の不安はぬぐえないままだ。

     札幌市内の量販店で働く女性(30)は妊娠6カ月。接客業務で、不特定多数の人と会う。職場に予防策としての時差出勤や有休取得の環境は整っていない。「在宅勤務もできず、感染の心配を常に感じながら働いている」。接客から事務への配転を希望したが「異動時期ではない」と聞き入れられなかった。「妊婦が飲める薬は限られており、何かあった時、無事に産めるのかと不安。国はもっと積極的に妊婦への配慮を働きかけてほしい」と訴える。

    妊婦への影響は 札医大の斉藤豪教授に聞く

     札幌医大の斉藤豪教授(産婦人科)に妊婦への影響や予防策などを聞いた。

    ■重症化の可能性も できる限り予防に努めて

     ――妊婦への影響は。

     妊婦だから感染しやすいとか、赤ちゃんに大きな影響を及ぼすといった報告は今のところありません。流産、死産のリスクが高まったとする事例も現時点ではない。過度な心配はいりませんが、一定の頻度で(母胎から胎児に感染する)子宮内感染を起こす可能性が報告されているので注意は必要です。新型コロナウイルスに限らず、妊婦の場合は投薬など治療の手段が限られてしまいます。新型コロナウイルスの治療薬として注目されている「アビガン」は、妊娠中に使うと胎児に奇形が生じる可能性があり、使えません。一般的に、妊娠中は子宮が大きくなるとともに臓器全体が押し上げられるため、肺炎などにり患すると呼吸が苦しくなりやすく、重症化の可能性があります。

     ――予防策は。

     人混み、「3密」(密閉、密集、密接)を避け、こまめな換気と手洗いが大切です。働く妊婦は時差出勤や在宅勤務など可能な限り感染リスクを下げられるよう勤務先と相談してください。新型のウイルスのためデータが少なく、まだ不確定な面も多い。何よりも感染しないことが大事です。

     ――感染が疑わしい場合は。

     37.5度以上の発熱や倦怠(けんたい)感が2日以上続く場合は帰国者・接触者相談センターに相談してください。感染者と濃厚接触したり、感染疑いのある家族がいたりする場合は妊婦健診の受診前に、かかりつけの産科医療機関に電話で相談を。妊娠末期に感染した場合、指定医療機関で分娩(ぶんべん)することになり、母子ともに陰性が確認されるまでは面会も授乳もできなくなります。

     ――不妊治療の延期推奨の声明に治療中の女性からは戸惑いの声もあります。

     3月に欧米の生殖医学会が不妊治療の一時停止を求める声明を出しました。これを受けた形です。感染した時のリスクがはっきりしない中、せっかく妊娠しても場合によっては大きな問題が起きる可能性もある。生殖医療のゴールは赤ちゃんが無事に生まれてくること。この状況では、治療の先延ばしを提案するのは必要なことだと思います。ただ、声明は強制ではなく、あくまでも推奨です。卵巣機能が低下している方や高齢の方は、数カ月治療を延期するだけで、採卵できなくなってしまうこともある。リスクを説明した上で、個々の対応となると思います。


    ▼新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する日本生殖医学会からの声明(2020年4月1日版)
    http://www.jsrm.or.jp/announce/187.pdf