【妊娠と働く】コロナ不安「でも休めない」 国が休業指針改正、企業への助成金新設…

(写真はイメージ=PIXTA)

新型コロナウイルスの影響が続く中、道内でも感染の不安を抱えながら働き続ける妊婦は少なくない。国は、妊娠中の女性が「感染への不安」から休業などが必要になった場合、職場が要望に応じるように指針を改正した。また今月、新たに、有給で休業させた企業への助成金を創設した。ただ、働く妊婦の制度や権利はあっても活用しにくい雰囲気が社会に根強くあり、今回の支援策も実効性は不透明だ。


「感染予防のために仕事を休みたいが、わがままなようで気が引ける」。札幌市内のイベント関連会社で働く妊娠5カ月の女性(33)はそう話す。5月まで在宅勤務だったが、緊急事態宣言解除後は通常勤務に。日常が戻りつつある中、人の多い中心部の職場への出勤は不安が募る。

妊婦が感染した場合、胎児への影響が分かっていない上、治療薬が使えなかったり、分娩(ぶんべん)する医療機関も限られたりとリスクが大きい。出産後は母子ともに陰性だと分かるまでは分離され授乳もできない。この女性は「どれだけ感染リスクを避けられるのか…」。

働く妊婦の負担軽減措置は雇用主の義務として法律で定められている。男女雇用機会均等法では、ひどいつわりなどの症状があり、医師らの指導を受けた場合、妊婦の申し出により、雇用主は勤務の軽減や休業などの措置を取らなければならない。厚生労働省は5月上旬に同法に基づく指針を改正し、感染への不安が妊婦に影響するとして指導を受けた場合も特例的に認めるとした=表①=。

新型コロナ対策で国が打ち出した働く妊婦への支援策

使いづらい雰囲気、効果は不透明

ただ、感染への不安から仕事を休みたいと思っても言い出せない妊婦は多い。妊婦に関するリサーチ機関「ニンプスラボ」(東京)が、指針改正後の5月11~13日に行ったネット調査では、働く妊婦1275人のうち4割が出勤を続けていると答えた。出勤を控えたいと望む妊婦の4割は職場に相談もできていない。理由は「言い出しにくい」が最も多く、「他の人の目が気になる」「言っても無駄」と続いた。自由記述には「(会社が)『妊婦だからと特別休暇を取らせるのは不公平だ』と、取らせてくれない」などの声も寄せられた。

「厚労省の指針は妊婦が職場に措置を申し出なければならない。人手不足の現場ほど自分から休ませてとは言い出せない」。4月中旬から妊娠中の医療者の配置転換や休業補償などを求める署名活動をネット上で続ける医師の高橋美由紀さん=仮名、20代=は言う。

妊娠中の高橋さんは、勤務する都内の病院の救急科で防護服などが不足する中、しばらく働き続けた。不安だったが、休むことによる周囲の負担を心配し、配慮してほしいと言い出せなかった。今は同僚の働きかけで陽性患者に直接、接する担当からは外れた。だが給与やその後のキャリアも補償されない中、自主的に休業を選ばざるを得なかった職員もいた。この状況を変えたいと署名を始め、5月中旬には一部を厚労省に提出。現在、医療者以外も含む4万1千人超の賛同が集まっている。

こうした声を受け、国は今月、妊娠中の働き手を有給で休ませた企業への助成金を新設した。年次有給休暇とは別の休暇制度の導入など条件を満たした企業が対象で、1人最大100万円が支払われる=表②=。

マタニティーハラスメントなど働く妊婦の問題に詳しい新村響子弁護士(東京)はコロナ前から働く妊婦の権利や制度はあっても、マタハラにあふれた日本社会では使いにくいとした上で「(制度などを)使おうとしても利用を阻害するような言動を職場から受けてきた。コロナで、妊娠中の労働者に対する制度の不十分さがあらためて浮き彫りになった」と指摘する。

コロナ禍の中で働く妊婦を守るためには「国は、雇用主が妊娠中の働き手に制度利用など積極的に働きかけるよう要請したり、『危険な業務』に妊婦を就かせてはいけないといったより踏み込んだ規制も検討すべきだ」と話す。

取材・文/根岸寛子(北海道新聞記者)

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