<妊娠と働く(上)>両立できない 変わらぬ仕事量、女性に重圧

両立できない 変わらぬ仕事量、女性に重圧

研究職の女性の母子手帳と、手帳交付時に区役所でもらった資料

子育て手前の妊娠期に、仕事との両立を断念する女性たちがいる。妊娠中の無理な働き方で、体調を崩したり、切迫早産などの危険にさらされたりすることがあるからだ。国は出産後の両立支援に力を入れるが、妊娠中の支援は企業や当事者任せが実情で、妊娠期の不調を深刻に受け止められていない現状がある。今週と来週の2回にわたり、妊娠期の働き方について考えたい。まずは当事者たちの声を聞いた。

「えっ、妊娠? おめでとうと言わなきゃいけないんだろうけど、人も足りないのに困ったな」。昨年、札幌市内の広告会社勤務の女性(34)=中央区=が妊娠を報告した時、直属の上司が発した言葉だ。「つわりで仕事を軽減してなんて、頼めないと覚悟した」

職場はギリギリ

職場の人員はギリギリ。締め切り前は深夜まで働いた。つわりで吐き気や眠気が増して、仕事のスピードも落ちた。職場での「妊娠は病気じゃない」との発言や、先輩女性の「私は予定日の近くまで働いた」との言葉に傷つき、「妊娠は悪いことなのか」と悩んだ。

妊娠10週の健診で流産がわかった。医師は「妊娠初期の流産は胎児に問題がある場合が多く、仕事が原因ではない」と言ったが、「仕事優先で、赤ちゃんを大切にしてあげられなかった」と後悔した。1週間後の流産手術まで胎児をおなかに残したまま働いた。つわりがなくなり、逆にそれがつらかった。術後も翌日から休まず仕事した。

女性は1月に転職。「こんな労働環境で次に妊娠しても無事に出産できない」

休日出勤も多く

3年前に出産した上川管内の会社員女性(37)は妊娠中、一人で車を運転し、近隣町村の営業先を回った。数十キロ先まで民家のない農地や携帯電話の通じない山奥も多く、「何かあったら」と不安だった。

上司に訴えると「無理のない範囲で」と言ってくれたが、妊娠前と仕事量は変わらず、休日出勤も多かった。「代わりがいなければ、休めない」。妊娠7カ月に出血した。かかりつけの産科を受診、切迫早産で1カ月の入院となった。「職場に迷惑はかけられない」。女性は退職を選んだ。

その後、無事に女児を出産。最近、職場から「戻っておいで」と声をかけられた。必要とされるのはうれしいが、2人目の妊娠を考えると「また迷惑をかけるのでは」と踏み切れない。

昨春出産した札幌市北区の研究職の女性(40)は学会など調査・研究で道外出張が多い。妊娠が判明した時はすぐに職場に報告し、出張の免除を申し出た。不妊治療の末の妊娠で大事にしたかった。理解ある同僚が交代してくれたが、別の部署で妊娠した同僚は、代わってもらえなかった。「対応が職場次第で分かれるのは納得がいかない」と思う。次の妊娠も考えたいが、職場の態勢も変わり「仕事と両立できるか不安」だという。

「身体、精神的に症状」8割 厚労省の女性労働者調査

厚労省が中小企業対象に2018年度に実施した女性労働者調査(1073人)によると、「妊娠中に身体的・精神的な症状があった」のは79%。このうち、53%が会社に申し出ていなかった。理由は「症状が軽かった」が57%で最も多く、「職場に迷惑がかかると思った」が39%と続いた。

妊婦への負担軽減措置は、雇用主の義務として、労基法や男女雇用機会均等法に定められている。しかし、具体的な軽減内容は示されておらず、職場や当事者の判断にゆだねられているのが実情だ。

今回の調査を受託した一般財団法人女性労働協会(東京)の小林恭子部長は「妊婦の体調は個人差が大きい。それなのに企業も妊婦自身も知識や情報不足から、適切な対応ができず、結局、追い詰められた妊婦が退職する例は少なくない。誰がいつ抜けても滞らない職場作り、働き方改革が求められる」と話している。

取材・文/根岸寛子(北海道新聞記者)

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