• 9月入学早期移行「拙速」 道内教育現場 待機児童の急増懸念

    分散登校し、少人数で授業を受ける児童たち。学校や保育の現場で9月入学への懸念が広がっている=18日、函館市立中央小
    新型コロナウイルスの感染拡大による長期休校を受けて政府が検討している「9月入学」制を巡り、道内の学校や保育の現場でも早期の移行に反対する声が強まっている。文部科学省が示した案では、保育所の待機児童が急増するなど、課題が次々と浮かび上がったためだ。安倍晋三首相は学びの遅れを取り戻すための「有力な選択肢」としていたが、自民、公明両党は早期導入見送りの提言案をまとめ、来年の導入は見送られる方向だ。

    文科省は小中高などの現在の学年を来年8月まで延長し、入学や進級を5カ月後の9月に移すことを想定。来年度以降に小学校に入学する児童数の5カ月分の増加を吸収するため、《1》21年9月に17カ月分全てを入学させる「一斉実施案」と、《2》1年当たりの入学を13カ月分にして、5年かけて移行する「段階的実施案」の2案を示している。

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    「生まれた月が小学校で1年5カ月も違うと、心と体の成長に大きな差が生じる。さまざまな面で支障が出る」。稚内市の小学校の男性教員(40)は一斉案に懸念を示す。また一斉案だと新1年生の数は1.4倍に膨らむ。必要な教員や施設の数は増え、将来の入試や就職の競争が激しくなりかねない。

    この教員の勤務校では6月1日から通常授業を再開できれば、夏休みなどを短縮することで学校教育法施行規則などで定める「標準授業時数」を年度内に確保できる見通し。教員は「拙速に9月入学を決めたら現場は大混乱する。今は子どもたちが落ち着いて学校生活を送れる環境づくりを優先するべきだ」と訴える。

    段階的案にも課題が浮かぶ。新1年生の数は一斉案より抑えられるが、学年の範囲が毎年1カ月ずつずれ、混乱する恐れがある。

    9月入学制 政府の検討案

    滝川市の小学校の男性教員(59)は「どちらの案でも感染が再拡大すれば長期間、休校せざるを得ない」と指摘し、9月入学ではなく、少人数学級の実現を訴える。この教員の学校では18日から分散登校が始まり、児童を10~20人に絞って授業している。「通常の35~40人学級と比べ『3密』にならず、一人一人に目が届く。感染予防と学びの遅れの取り戻しが両立できる少人数学級が望まれる」と強調する。

    来年度に小学校に入学する5歳の長女がいる札幌市南区の自営業の男性(39)は「マスク配布すら手間取る政府が広範囲に影響が及ぶ改革を短期間で成し遂げられるとは思えない」と言う。

    保育現場では、小学校入学が4月から9月にずれ込むと、待機児童の急増が避けられない。英オックスフォード大の苅谷剛彦教授の研究チームは一斉案の場合、21年に全国で26万5千人の待機児童が発生すると試算。段階的案でも21年に26万5千人、22年に15万7千人、23年に5万3千人に上るとする。

    札幌市私立保育園連盟の菊地秀一会長(三和新琴似保育園長)は保育士のなり手不足が続く中、「受け入れ拡大は非現実的で、9月入学に対応できる状況ではない。政府は現場の実態を踏まえて対策を検討してほしい」と求める。

    取材・文/水野富仁(北海道新聞記者)

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