「2020教育改革」を知ろう(下) 自ら考え、表現する力育む 児童生徒、保護者、先生どう臨む 2氏に聞く

2020年度からの教育改革を学ぶ2回目は、変わる小中高校の授業に児童生徒、保護者、学校の先生がどう臨めばいいのかを、教育コンサルタントの山口たくさんと、北海道教育大学副学長の玉井康之さんに聞きました。(鹿内朗代、田鍋里奈)

偏差値で進路決めずに
教育コンサルタント・山口たくさん

山口たくさんの話のポイント

やまぐち・たく 1972年生まれ、47歳。東京都の進学塾講師や家庭教師をへて、理想の教育を求めてニュージーランドに移住。現地で日本人の教育相談を行っている。著書に「学校教育がガラッと変わるから、親が知るべき今から始める子どもの学び」(風鳴舎、2018年)がある。

――2020年度から、教育が変わります。

「良い変化だと思います。私は約10年前まで東京で塾講師をしていました。子供たちが『先生、結局正解は何?』と聞く姿勢に疑問を持ちました。今、簡単な正解は人工知能が答える時代です。人間には、正解のない問いに臨む力、知識を使う力が必要です。私が住むニュージーランドでは20年ほど前から、今回日本で導入されるアクティブ・ラーニング(AL)型の授業を行っています。話し合いで問題を解決する教育です。その中で子供たちはたくましく成長しています」

――子供たちの「知識を使う力」はどうすればつきますか。

「小学生のうちは好きなことを存分に続け、たくさんの経験をすることが大切です。いずれ大学入試も、個人の特性を重視するように変わる可能性があります。好きなことを続けることは、将来のためにもなるのです。同時に、読み書き計算や基本的な知識は身につけてください。活字を読みましょう」

山口たくさんの著書

――中学、高校ではどんなことを意識するべきですか。

「中学、高校は論理的な思考力を身につける段階です。自分の考えを筋道立てて説明し、相手に『私はこう思う』と意見することが大切です。発言が難しい場合は思うだけでもオーケーです。パソコンは将来必ず使うので、基本的な技術を身につけると良いでしょう。高校生にお勧めなのは海外留学。海外で価値観が変わる体験ができます。自治体や国の補助金も活用しましょう。ボランティアなどの社会参加も大切です」

――進学先を選ぶ時に注意する点は。

「中学生は、自分の将来について考え始める時期です。ぼんやりとでもいいので好きなことや、高校でどんな経験を積みたいのかを考えてください。偏差値だけで高校を選ぶのはやめましょう。高校生も同様です。『受験が楽だから私立文系大学で』などという決め方はダメです。将来、逆に苦労することになります」

――先生、保護者は子供にどう接するべきでしょう。

「ALは自分の考えを言えることが前提の教育です。子供が『意見を言いたい』と思えるよう、自己肯定感を育てなくてはなりません。大人が子供を一人の人間として扱い、会話することが大切です。『一流大学に進み、有名企業に就職し―』という考え方は変えましょう。『将来困らないように』と、幼少期から子供に多くの習いごとをさせる人もいますが、例えば英語は高校生から学んでもきれいな発音になります。それよりも、子供自身がやりたいことを信じ、子供が自分らしく生きる力を育んでほしいと私は考えます」

(聞き手・鹿内朗代)

主体性を伸ばす指導を
道教大副学長・玉井康之さん

玉井康之さん

たまい・やすゆき 1959年香川県生まれ、60歳。新潟大卒業。教師教育論、へき地小規模校教育、地域教育経営などが専門で、2014年から北海道教育大副学長を務めている

――2020年度から学習指導要領が変わります。どうみますか。

「新しい学習指導要領は子供の『生きる力』を育むとしています。生きる力とは、新指導要領では『確かな学力、豊かな人間性、健康・体力』のことです。人間性などの目に見えない力を育む対象に含めたことは画期的と言えます。こうした部分は子供の活字離れや外で遊ぶ機会の減少などさまざまな社会変化を背景に、育まれにくくなっています。特に子供の我慢力、持続する力が弱まってきています。学力は我慢と続ける力がないと伸びません」

――20年の教育改革で子供に求められる力はどう変わりますか。

「児童生徒は学校で学んだ知識と知識をつなげる力、または日常で目にした情報と学校で学んだ知識をつなげて理解する力が求められます。例えば、香川県はコシの強いうどんが有名で、原料の小麦は雨が少ない土地で育ちます。この話は学校では分解されて学びます。つまりコシの強いうどんは料理なので家庭科、麦の話は農業なので社会科、雨量は気候なのでは理科で―となります。各教科で学んだそれらをつなげて理解することができれば、知識は厚みを増して理解が深まります」

玉井康之さん

――子供たちはまず何をするべきでしょうか。

「児童生徒は自分の考えを論理的に展開する力が求められます。子供たちにはまず、活字に多く触れてもらいたいと思います。本をたくさん読んで語彙力・読解力・表現力を磨きましょう。自分が言いたいことを伝えられ、相手が言うことも理解できる力も付きます。自分の考えを示すには訓練が必要です。誰かと話すこと、実際に文章を書くことで論理的な力を付けましょう」

――教員はどう指導すべきですか。

「教員は子供に答えを与えるのではなく、自分で考えることを促す必要があります。生きる力には自分で調べる力も含まれます。辞典を引く、百科事典をめくるなど、子供の追求する気持ちを大切にして伸ばしましょう。教員の言うことを聞く子供ではなく、自分で考えて課題に取り組む子供を育てましょう。主体性を伸ばすことを意識してほしいと思います。子供が理解することを支援する補助的な役割が教員の新たな側面に加わります。ただ現場の教員の負担がさらに増えるのは心配です」

――アクティブ・ラーニング型授業も導入されます。

「建設的に意見を交わして議論するスキルを身につけることを目指します。ただ、これは学級の中で信頼関係があることが前提です。子供が安心して意見を言える環境が必要です。環境を整える役割を教員1人に押しつけてはいけません。学校、保護者、地域住民は長期的に子供を見守るべきです」

(聞き手・田鍋里奈)

2020年度教育改革

文部科学省は2020年度、新しい学習指導要領を小学校を皮切りにスタートさせ、大学入試センター試験の後継として大学入学共通テストを導入します。
学習指導要領は、文部科学省が小中高校で教えることを定めた基準。新学習指導要領は、児童生徒が自分で考え、判断し、表現する能力を育てることを重視。英語の授業が強化され、プログラミング教育が小学校から必修化されます。学校に対しては、子供たちが自ら調べたり、子供同士が話し合いながら学ぶ授業(アクティブ・ラーニング)を行うよう求めています。
大学入学共通テストは、国語と数学で従来型のマークシート式問題に加え、記述式も採用します。英語では「読む・聞く・書く・話す」の4技能を問うため、大学入試センターが認定した民間検定試験を活用します。

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