「#いきなり赤ちゃんに触らないで」 コロナ禍で変わる子育て意識

新型コロナウイルス感染の影響が続く中、ツイッター上では「#いきなり赤ちゃんに触らないで」という母親の投稿が反響を呼んでいます。きっかけは8月中旬、ある大阪府の母親が街中で見知らぬ人にいきなり赤ちゃんを触られた時の不安な思いをハッシュタグ(#)を付けて投稿したこと。保護者らの共感を呼び、投稿から1カ月以上たつ今もさまざまな意見が投稿されています。8月29日の北海道新聞朝刊にも掲載。道内にも同様の経験をした保護者は少なくなく、コロナ禍による子育てへの意識の変化を指摘しています。

悪気なし 保護者困惑

生後4カ月と3歳の2人の娘を育てる千歳市の渡部さやかさん(34)は、コロナが流行する以前から、子連れで近所を散歩したり、スーパーで買い物したりしていると、特に60代以上と思われる見知らぬ年配者に声を掛けられることが、たびたびあるといいます。

「特に赤ちゃんを連れている時が多いです。『かわいいね~』と言っていただけるのはうれしいのですが、中には、急に子どもの顔や手を触ってくる人も。悪意がないのはわかるので、拒絶もしにくく、困ってしまいます」

コロナ禍で、外出時にはマスクの着用や手洗い、人混みを避けるなど、感染予防策には気を使っているそうです。「コロナ前はそこまで思わなかったけれど、感染が心配な今だからこそ、見知らぬ人に急に触られるのは不安になります」と言います。

1歳8カ月の息子を育てる旭川市の女性(39)も、コロナ感染の流行以降、子どもが知らない人に突然触られることに、より敏感に反応するようになったといいます。近づいてくるのは高齢者に多いといい、予防接種などで病院に行くと、必ず待合室で顔や頭をなでられるそうです。「何を触ったかわからない手で触られるのは、やはり怖いです。せめて『触ってもいいか』と保護者に確認してほしい」と話します。

札幌市の女性(36)は、昨年10月の散歩中での出来事が忘れられないといいます。当時1歳だった双子の息子たちをバギーに乗せて近所を散歩中、「かわいいわね~」と近づいてきた高齢女性が急に、子どもたちの顔を両手でなで回したそうです。

息子2人は低体重で生まれたため、感染症にかかりやすく、生後から感染対策には注意を払ってきました。それだけに「感染リスクの高まる顔を触るのは遠慮してほしい」と相手にやんわりと伝えたところ、「人をコロナ扱いした。バカ親」と罵倒されたといいます。「赤ちゃんや乳児はマスク着用できず、手指消毒といった対策が大人よりも難しい。親の不安を理解してほしい。そして、勝手に触るのはやめてほしい」と訴えます。

許可を取るのがマナー
札幌国際大の深浦尚子教授=幼児発達心理

深浦尚子教授(60)

深浦尚子教授(60)

赤ちゃんは目がクリクリしていたり、体がプクプクとしていたりして、大人の愛情行動を引き出す容姿をしています。ですから「赤ちゃんに触りたい」という衝動は、心理学上も、行動学上も、人間の自然な行動であるとされています。

ですが、保護者に「触ってもいいですか」と少なくとも許可を取るのがマナーだと思います。特に今は人との接触を極力減らすコロナ禍にあります。相手が知らない大人の男性や女性でも許可なく体を触りますか? 赤ちゃんや子どもだからといって、勝手に触れてもいい、ということにはなりませんよね。小さくても一人の人格ある人間です。

コロナ禍の中、保護者の「自分の子どもを守りたい」という思いは同じでも、その考え方の強弱はさまざまです。周囲が「心配しすぎ」「過剰」などと非難するのは見当違いです。自分は大丈夫だと思っていても、相手が不安に思うことがあります。対立するのではなく、他者の視点に立って、相手の不安に寄り添うことが大切だと思います。

感染拡大で不安表面化
こどもクリニックはぐ(稚内)伊坂雅行院長=小児科医

伊坂雅行院長(54)

伊坂雅行院長(54)

これまであまり意識せずに「普通にあること」と見過ごされていたことが、コロナの影響から、ものすごいスピードで普通でなくなってきたと感じています。今回の例もそうでしょう。

昔から、見ず知らずの赤ちゃんや小さな子どもを触る人はいました。特に高齢者に多いのではないでしょうか。そして、それを嫌だと思っていた保護者も少なからずいたと思います。それが、コロナ感染症の流行で余計に気になるようになり、SNS上で急激に広まったのだと思います。

核家族化が進み、近所付き合いも少なく、地域で子どもたちを育てる時代ではなくなりました。今回はそこにコロナが拍車を掛け、保護者にとって非常に厳しい子育て環境にあると日々の診察でも感じています。

子どものコロナ感染が増える中、保護者が不安に思うのは無理もありません。コロナの主な感染経路は飛沫(ひまつ)感染と接触感染。短時間の接触であれば、感染のリスクは極めて低いと思ってよいレベルだと思います。

取材・文/根岸寛子(北海道新聞記者)

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