病児保育急増 不安はコロナ

企業主導型保育所「まめのき保育園」併設の病児保育室で、おもちゃを念入りに消毒する看護師=札幌市中央区

企業主導型保育所「まめのき保育園」併設の病児保育室で、おもちゃを念入りに消毒する看護師=札幌市中央区

病気の子や回復期の子を保育所や病院の専用スペースで預かる「病児保育」の需要が、札幌や旭川を中心に急増しています。子どもが感染すると重症化する恐れがある「RSウイルス感染症」の流行が続いているためです。若い世代の感染が増えている新型コロナウイルス対策も急務で、現場からは「利用前にPCR検査をするなどの仕組みが必要。子どもも働く人も守れないかもしれず不安」との声が上がっています。

続くRSウイルス流行 都市部に需要

RSウイルスに感染した場合、主な症状は発熱、鼻水、せきで、おさまるまで1週間程度かかるとされます。コロナ禍で「体調不良時の登園自粛」が呼び掛けられており、子どもを預けたい保護者にとって、病児保育は頼みの綱です。

9月初旬、札幌市中央区の企業主導型保育所「まめのき保育園」併設の病児保育室で、看護師の黒田奈緒さん(37)はおもちゃを念入りに消毒していました。「私たちが子どもの感染症をもらう可能性もあり、気をつけています」

認可外施設の同保育室はコロナ対策で昨年春から定員を10人から3人に減らしました。昨年度の利用は月10人前後でとどまっていました。今春以降はRSウイルスに感染した0~2歳を中心に利用が増え、月20~30人の状態が続いています。

旭川市からの委託で社会福祉法人が運営する病児保育室「まほうのちから」では7月から現在まで満室が続き、キャンセル待ちが10人に上るときも。保育士は「昨年とは一転。連日子どもが途切れない」と話しました。

RSウイルスの流行拡大は全国的なものです。国立感染症研究所によると、全国約3千カ所の小児科から報告された今年8月16~22日のRSウイルス感染症の患者数は6234人(道内536人)。前年同期の96人(同1人)から大幅に増えました。新型コロナ対策の徹底により昨年のRSウイルス感染者が減り、十分な免疫を獲得できなかった子どもが増えたのが、今年の猛威の原因―との見方もあります。

季節の変わり目の今、一般的な風邪にかかる子も多く、病児保育の需要をさらに押し上げています。8月末、風邪の症状が出た2歳の娘を病児保育室に預けた札幌市西区の病院勤務の女性(23)は「シングルマザーで預け先はなく仕事も休めないので助かりました」。清田区の保育士女性(35)も「子どもが熱を出すたび休むのは難しい。職場に迷惑をかけられません」と切実です。

道によると昨年4月1日現在、道内では自治体が保育所や医療機関に委託する病児保育室は計65施設。利用者数は増加傾向にあったが、コロナ下の20年度は前年度比約千人減の1万1296人でした=グラフ=。このうち札幌市の6施設では、19年度まで2千人台で推移していた利用者数が、20年度は857人と激減。市子ども未来局は「コロナ前後で利用要件の変更はありません。保護者の預け控えがあったのでは」とみています。

利用者が戻ってきた病児保育室は今、コロナ対策にも頭を痛めています。感染力の強いデルタ株がまん延し、全国的に10代以下の感染者数が増えているからです。

利用には医師の診断書が必須だが、コロナと風邪の症状は区別しにくいとの指摘もあり、預かる現場には不安が募ります。札幌の病児保育室で働く看護師は「マスクをできない乳幼児のせきを顔に浴びることも多いので心配」と明かしました。

PCRなど対策の動き

道内では旭川市が6月、市内の小児科に、病児保育希望者には必要に応じてPCR検査や抗原検査を行うよう通達を出しました。釧路市の委託で病児保育室を運営する認可保育園「釧路共栄保育園」の真下浩二園長(50)も「簡易検査をしてもらうことで『大丈夫』という確証がほしい」と話しています。

全国病児保育協議会の大川洋二会長(71)は「検査してから預かる仕組みが望ましいが、現実的には全ての施設で、すぐにできるわけではない。大事なのは子どもを守ること。預かる側はワクチン接種や会食を避けるなど、できる対策を続けています」と話しています。

取材・文/有田麻子(北海道新聞記者)

病児保育事業

病児を預かる「病児」、回復中の子を預かる「病後児」、保育中に微熱が出たときなどに様子を見る「体調不良児」の3種の保育がある。実施は市町村の努力義務。施設ごとに協力医療機関と指導医を定める必要があるほか、原則として看護師の常駐が必須。財団法人児童育成協会(東京)によると、道内には自治体が委託運営する施設のほか、企業主導型保育所併設の病児保育室が計38カ所(うち札幌は28カ所)ある。

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