子どもの意欲や協調性、自尊心… 「非認知的能力」育もう

意欲や協調性、自尊心などを指す「非認知的能力」が、幼児教育の新たなキーワードとして注目されています。知能指数(IQ)などの数値化しやすい「認知的能力」と違って目には見えにくいですが、学力を伸ばす土台にもなるといいます。非認知的能力を家庭で育む方法について、専門家に聞きました。

納得するまで遊ばせ興味を尊重

木の根元を見つめて虫を探したり、ボウルに入った泥水をひたすらお玉ですくい、鍋に移したり―。札幌市豊平区の札幌ゆたか幼稚園(丸谷雄輔園長)では、子どもたちが園庭のあちこちで夢中に遊んでいました。

同園では、非認知的能力が注目されるようになった2年ほど前から、毎日15分程度、先生が子どもたちの一日の様子を振り返る時間を設けて、どのように「能力」を育むかを話し合ってきました。虫を探す子も、泥水をいじる子も、先生たちは近くで見守り、納得するまで遊ばせます。丸谷園長は「意欲を引き出す遊びの素材や、声のかけ方について工夫しています」と話します。

次女(5)を通わせる境野享子さん(45)=札幌市=は「勉強ができても、将来、社会になじめないと困る。遊びを通じて精神力や協調性を培ってほしい」と同園の姿勢に期待します。

「非認知的能力」とは、目標に向けて前向きに取り組む姿勢や他者と協力する力、自尊心のほか、感情を制御する力などを指します。乳幼児期から、大人が子どもの主体性を尊重し、子どもの気持ちを受け止める関わりを通じて、この能力が育まれるとされます。

藤女子大の吾田(あづた)富士子教授(保育学)によると、非認知的能力を重視する考えは、2017年に改定された文部科学省の幼稚園教育要領や、厚生労働省の保育所保育指針にも反映され、幼児教育や保育の現場に浸透しつつあるといいます。

家庭では、何を心がければいいのでしょうか。

吾田教授は「まず子どもを信頼し、1人の人間として敬意を持って関わる姿勢が大切」と語ります。

例えば、どう見ても無理なのに、子どもが自分でボタンを留めようと挑戦しているとき。「それは無理だよ」とやめさせるのではなく、子どもの「自分でやりたい」という思いを尊重し、その行動に寄り添います。結果としてできなくてもOK。「気持ちが尊重された」という経験は、他者の気持ちを理解し、尊重する協調性につながるといいます。

子どもにとって「遊び」は、物事と真剣に関わる取り組み。子どもが自分で遊び始めたら、本人が「終わり」と判断するまで続けさせると、「粘り強さが育つ」と吾田教授。習いごとを始める時も、子どもの興味を尊重すると「いずれ投げ出したくなった時も、自分で選んだものなら粘り強く取り組む力が生まれやすい」と指摘します。

日々の生活では、失敗しないよう大人が先回りし過ぎず、困ったことが起きたら一緒に解決策を考える姿勢も大切だといいます。

ただ、こうした関わりには親自身も心と時間の余裕が必要です。幼児の判断力はまだ未熟で、危険を伴う場合など、大人の手助けが必要な場合もありますが「大人から『与えられる』ばかりではなく、子どもが自分で何かを試したり、任されたりする経験が、非認知的能力を伸ばすのです」(吾田教授)とアドバイスします。

取材・文/酒谷信子(北海道新聞記者)

非認知的能力

学力テストや知能指数(IQ)などで測定できない、社会性や意欲、自尊心などの特性のこと。その大切さは以前から指摘されていたが、米国で1960年代に行われた「ペリー就学前プロジェクト」などを分析したノーベル経済学賞受賞者のジェームズ・ヘックマン教授(米国)の研究で、裏付けられた。研究が2015年に日本に紹介された後、非認知的能力を重視する考えが国内の幼児教育や保育の現場にも浸透しつつある。

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