連載コラム「晴れときどき子育て日和」第10回
7つの命が家族の仲間入り! 共食い、上陸…大騒ぎの日々
5月のある日、息子がお手紙をくれました。
「おかあさんへ エゾサンショウウオの赤ちゃんをうちでかいたいです。りょうたくんがわけてくれます。おねがいします。はるより」
こんな可愛らしいお手紙をもらって、断ることなんてできましょうか? 「もちろん、いいよ!」と返事をすると、息子は大喜びしました。しかし、待てよ…エ…エゾサンショウウオってなんだろ。恐る恐るネット検索すると、そこにはヌルヌルとした身体が特徴の両生類の姿があったのです。
うーーん、可愛がれるだろうか…。しかし、今さら「ダメ」とは言えない。かくして、カエルのオタマジャクシに似たエゾサンショウウオの赤ちゃん7匹がやってきたのです。
エッちゃん、ゾッちゃん、サッちゃん、ンッちゃん、ショッちゃん、ウッちゃん、ウオちゃんと、全く工夫のない名前をつけて、飼育スタート。元気な7匹は何でもよく食べ、目に見えて大きくなっていきました。
しかしある夜、事件が起こりました。水槽の水替えの時、元気な1匹がシンクに飛び出したのです。すぐ水槽に戻したものの、弱った個体はあっという間に仲間に食べられてしまいました。そう、エゾサンショウウオの幼生は共食いするのです…。
ウッちゃーーーーーーん…!!!(いや、サッちゃんかも…見分けはつきません)
「本当にごめんなさい、ウッちゃんが食べられてしまった」と謝ると、息子は寂しそうに「(ウッちゃんの名前をウオちゃんに足すことにして)今日からウウオちゃんだね…」とつぶやいて登校していきました。
その日から、水替えは慎重の上に慎重を期する厳粛な作業になりました。フンはできるだけスポイトで吸引、共食い防止のため餌は大好物の冷凍アカムシに。それでも1匹は共食いの犠牲になり、食の細かった1匹も死んでしまい、泣く泣く埋葬しました。
4匹となったエゾサンショウウオは日に日に大きくなり、手が生え、足が生え、エラが小さくなり、成体へと姿を変えていきました。水槽を大きいものに替え、酸素ポンプも備えて迎えた7月のある日、とうとう4匹が水槽の中に置いた石に上陸したのです! 「頑張ったね…よく、ここまで大きくなって(涙)」 今は息子より、私自身がヨチヨチ歩きのエゾサンショウウオに夢中です。
特に生き物が好きでもなかったのに、ましてや両生類を可愛がれるなんて…! 東京で働いている時は自分のこと以外、構う余裕はありませんでした。でも今は、自分より他の誰かに時間と愛情をかけ、それを楽しむこと、「命を育む以上に尊いものはない」と信じること、それが私の「芯」になっています。
好奇心旺盛な息子は、学校からひまわりの種をもらってきたり、トマトの苗をもらってきたり…我が家には今、手間ひまのかかるものがいっぱい。けれど、今朝も太陽の方を向いて立派に育つヒマワリの本葉と、上陸して気持ちよさそうにしているエゾサンショウウオを見て、ニコニコしている私がいます。みんな、元気に大きくなぁれ。
谷岡碧さん
たにおか・みどり/2012年にテレビ東京を退社後、タイへ移住してNGOで勤務。17年に帰国後は札幌へ住み、幼なじみと読み聞かせユニット「エネッツ」を結成。21年春から、主婦と生活社の女性向けサイト「CHANTO WEB」でライターとしても活動中。夫と小学1年生の長男、2歳の長女と暮らす。札幌市出身、36歳。
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