• 赤ちゃん病床確保へ「戻し搬送」実証研究 札幌・道立子ども総合医療センター

    救急車から降ろした赤ちゃんを医療用小型ジェット機(奥)に運ぶ準備をする医療者ら=1月下旬、新千歳空港(大石祐希撮影)
    地方で治療できない重い疾患のある赤ちゃんの治療を担う道立子ども総合医療・療育センター(札幌、愛称・コドモックル)。道内の新生児医療の「最後のとりで」だ。昨年11月に新生児集中治療室(NICU)のベッドを9床から12床に増床した。背景に赤ちゃんの入院の長期化で、満床状態が続いていることがある。ベッドの有効利用を模索する同院は、道の医療用小型ジェット機で同院での治療を終えた赤ちゃんを地元の病院に搬送する「戻し搬送」の実証研究に2年前から取り組んでいる。現場を見た。

    1月下旬、新千歳空港の駐機場。ピッ、ピッ、ピッ―。呼吸状態や心拍数を伝えるモニター音が響く中、先天性の脳疾患などがある生後5カ月の赤ちゃんを乗せたストレッチャーが救急車から降ろされた。赤ちゃんは、呼吸を楽にするため気管切開の手術を10日ほど前に終えたばかりで、人工呼吸器や点滴など多くの管を体に付けていた。医療者ら10人で、医療用小型ジェット機「メディカルウイング」に慎重に運び込んだ。

    呼吸管理など続け

    機内にはコドモックルの医師や看護師らも同乗、目的地の釧路まで赤ちゃんの呼吸管理などを続けながら移動。約40分で釧路空港に着陸、待機していた救急車でNICUのある市内の病院に搬送した。所要時間は2時間30分。コドモックルの中村秀勝医師は「陸路搬送だったら釧路まで6時間かかり、揺れも大きく、患者負担を考えて春まで地元に帰せなかった」と話す。

    メディカルウイングは機内に医療機器を搭載して医師が同乗、飛行中も患者の手当てができる。振動や騒音が小さく、室温や気圧の調整も可能で「患者にとって最も優しい搬送方法」(中村医師)という。ただ、運用対象は高度治療を受けるための搬送で、本来、治療後の患者の戻し搬送は対象外だが、実証研究として行っている。

    機内で赤ちゃんの人工呼吸器や点滴などを点検する医療者(大石祐希撮影)

    戻し搬送は道内の新生児医療の大きな課題。コドモックルは、主に脳外科疾患や重度心疾患、腹部外科疾患の治療を必要とする赤ちゃんが全道各地から年間100件以上搬送される。治療後の赤ちゃんを地元の病院へ送る戻し搬送は年間30件以上あり、民間救急車を利用している。

    家族との分離防ぐ

    ただ、遠方であるほど陸路での長時間搬送による患者への負担、天候・冬季の運行リスクから、搬送を断念したり、遅らせたりすることが頻繁にあり、入院期間が数カ月から1年近く長引く例もある。そのため、NICUのベッド稼働率は常に9割超の満床状態で、新規患者の受け入れを妨げる要因となっている。

    家族との分離期間が長引くことへの問題もある。遠方から入院する赤ちゃんの場合、家族は面会のための移動に経済的、時間的な負担を伴う。離れた期間が長いほど、家族として受け入れが困難になる事例も少なくなく、早期に自宅近くのNICUのある病院に戻す重要性が指摘されている。

    同院の浅沼秀臣・母子医療センター長は「ベッド待ちで手術を延期する患者が常にいる。ベッドの有効利用と、家族分離の長期化を防ぐ意味でも、広大な道内では、新生児や乳児の戻し搬送の体制整備が急務」と指摘する。

    24時間対応のコドモックルのNICU。常に満床状態で医師や看護師の負担も大きい
    24時間対応のコドモックルのNICU。常に満床状態で医師や看護師の負担も大きい

    メディカルウイングを使った戻し搬送の実証研究は2019年5月に開始。これまで釧路や帯広、網走の病院へ計7件実施した。いずれも所要時間は2、3時間と陸路の半分程度で、点滴などが付いた状態の術後10~20日でも、揺れが少ないため安全に搬送できたという。

    中村医師は「揺れの大きい陸路では点滴などが完全に外れて安全に搬送できるまで待つことが多い。研究搬送の7件はいずれも陸路しか選択肢がなければ術後2カ月はベッドで待機したケース。早期の新規患者受け入れにつながり、研究搬送が奏功した」とみる。今後も症例数を重ね、有用性を検証していくという。

    1月下旬に釧路の病院に搬送された赤ちゃんは3月の退院に向けて順調に育っているという。母親(38)は「幼稚園児の子どももいるので、早期に地元の病院に搬送されたおかげで、家のことと面会との両立ができるようになり、ありがたかった」と話している。

    取材・文/根岸寛子(北海道新聞記者)

    医療用小型ジェット機「メディカルウイング」
    道が2017年に国内で初めて運用を開始した。高度専門医療が必要な地方の患者を運ぶ。道医師会や自治体でつくる北海道航空医療ネットワーク研究会に委託、中日本航空(愛知)が運航を担う。昨年度の搬送は27件。

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