連載コラム「晴れときどき子育て日和」第4回

「わたしはおかあさんのあい」 なりきり作文が息子を変えた

写真提供/谷岡碧さん

去年、小学校に入学した長男・遼(はる)。繊細で個性の強い息子はすぐに違和感を口にするようになりました。「なぜみんなと同じことをしないといけないの?」 

うーん…これは困ったことになったぞ。私が返答に困っているうちに、学校での息子の態度は頑なに。「みんなの描いた絵でどれがいちばん良い?」と言われても「良いと思う絵がない」。図工で先生にアドバイスされても「シンプルなものが好きだから」。「楽しかったことを発表しよう」と言われても「楽しいことなんてない」。

毎日怒られてますます落ち着きをなくす悪循環が生まれ、ある日ついに恐れていた言葉が。「もう学校なんて行きたくない!!」

小さな疑問を胸に、目に見えて自信を失っていく息子。親として真正面から答えなくてはいけない時が来たと感じました。

翌朝、たくさんの写真を並べて見せました。黒柳徹子さん、本田宗一郎さん、水木しげるさん、岡本太郎さん。「この人たちね、みんな普通の学校には馴染めなかったんだよ。でも素晴らしい個性があって、それを生かした仕事に就いた。お母さんは『みんなと同じことをしたくない』っていうはるの感覚は間違っていないと思う。だから自分を『悪い子』だなんて思わないでね。はるには素晴らしい個性があるし、必ずそれが生かされる日がくるから」。その朝、息子はポロポロと涙をこぼしました。

一方で、持病のある父が心配でした。感染したら悪化する可能性が高く、最悪の場合は死に目に会えないかもしれないという緊張感が常にありました。

身内の死を強く意識しながら子どもたちと密に過ごす時間には、不思議なコントラストがありました。

娘がベランダで飛ばすシャボン玉が、太陽の光を受けてキラキラと輝く様子。砂場で大きな山を作り「トンネルがつながった!」と喜ぶ息子のどろんこの笑顔。当たり前の生活の中に「生きる歓び」の輪郭がありありと浮かび上がる、それだけのことで胸がいっぱいになる瞬間もありました。

こんな日々が私から何かを奪ったとしたら、それは「野心」のようなものかもしれません。家族と過ごす毎日への感謝が膨らむほど、個人として何かを表現したい、発信したいという想いは縮む一方で…。

この状態にそれらしい見出しをつけるとしたら「『コロナ自粛に伴う意欲低下』かしら?」なんて考えつつも、未曾有の事態に直面する今、ささやかな日常を愛おしく思う自分を肯定してあげたい気もするのです。

谷岡碧さん

たにおか・みどり/2012年にテレビ東京を退社後、タイへ移住してNGOで勤務。17年に帰国後は札幌へ住み、幼なじみと読み聞かせユニット「エネッツ」を結成して活動中。夫と小学1年生の長男、2歳の長女と暮らす。札幌市出身、36歳。

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