暴力描写 見るなら親子で 「どう思った?」声かけ大切 「鬼滅の刃」大ヒットで注目

劇場版アニメが大ヒット中の「鬼滅の刃」。単行本の最終巻が4日に発売され、札幌市内の書店でも長蛇の列ができた

劇場版アニメが大ヒットし、子どもから大人まで幅広い年齢層に人気が広がっている「鬼滅(きめつ)の刃(やいば)」。家族愛や努力の大切さなどが描かれる一方で、戦闘シーンや死を生々しく描いた場面もあり、「子どもに見せても大丈夫だろうか」と迷う保護者もいるようだ。過激な描写のある漫画やテレビ番組などは他にも多くある。子どもに与える影響や、上手なつきあい方について専門家に聞いた。


「鬼滅の刃」は吾峠呼世晴(ごとうげこよはる)さん作の少年漫画。家族を鬼に殺された主人公が、鬼に変えられた妹を人間に戻すため鬼との戦いに挑む物語で、流血したり鬼の首を切り落としたりするシーンがしばしば出てくる。インターネット上などでは、「残酷な場面があるが、自分の子に見せてもいいものか」などと悩む保護者の声も少なくない。

札幌市内のパート職員斉藤由佳さん(34)の2歳、4歳、6歳の子どもたちは、好きなキャラクターになりきり、新聞紙を丸めて作った棒を刀にして走り回る「鬼滅ごっこ」で遊ぶのが日課。だが、「鬼を殺すには首を切り落とさなきゃ」などと言って、たたいたり、首を切るまねをする姿を見ると「このままで大丈夫かな」とモヤモヤした思いになるという。

未就学の子どもの発達心理を専門とする札幌国際大教授の深浦尚子さんは「前提として、小さな子どもは見たものを模倣し学習していきます。好きであるほど、相手から影響を受けやすい。興味を抱けば、それが教育的に良いか悪いかに関係なく、子どもはまねをするものです」と指摘する。

保護者はどう対応したら?

模倣の対象は、親やきょうだいの言動だけでなく、周囲の人やテレビのキャラクターも含まれる。ただ、「ごっこ遊び」であれば、それほど心配はいらないという。「ヒーロー役だけではなく、悪役にもなることで、『たたかれると嫌な気持ちになる』など相手の気持ちも学ぶことができます。そうなると、本気ではたたかず、たたいたしぐさをするようになります」

暴力シーンなど過激な描写の場面を見ることへの影響については「特に5歳以下の子どもは虚構と現実の世界が区別できません。テレビの中のキャラクターが本当にいると思っています。小学生になると少しずつ現実ではないと思うようになってきますが、メディアから受ける影響は少なくないと複数の研究で報告されています」という。

それでも子どもが見たいという場合は「保護者が一緒に視聴し、子どもに『これは、本当にやったらダメだね』などと声かけすることを心がけて」と深浦さん。一方で「『うちの子には、まだ助言しても理解するのは難しい』と思うなら、見せないという判断もありだと思います」と話す。

こころのリカバリー総合支援センター(札幌)所長の阿部幸弘さん(精神科医)は「ショッキングなニュース映像など現実の映像の場合は子どもの心に傷をつける可能性がありますが、漫画などのフィクションであれば、保護者が子どもの発達の段階を見極めて判断して問題はない」と語る。

「漫画やアニメは本来、物語に影響され、心が動かされることで面白いと感じるもの。(過激な場面も)避けるのではなく、そこから触発されて、考えることが大事」と助言する。阿部さんが勧めるのが、親子で対話しながらの視聴だ。「小学生以上であれば、例えば『○○についてどう思った?』と問いかけ、議論し、意見交換することで、情報をいろんな角度から見ることの大切さを教えることができる」という。

漫画評論家でもある阿部さんは「鬼滅の刃」の人気について「家族ですら希薄になりつつある現代の中で、改めて人とのつながりの大切さや、人としてどうあるべきかを物語の中で感じ、ひかれる人が多いのでは」とみる。

漫画やアニメに限らず、子どもに見せたくないような描写は日常にあふれている。「怖いシーンは見ちゃダメと隠すのではなく、しっかりと話をして、子どもの道徳性を育てるきっかけにしてほしい」と指摘している。

取材・文/根岸寛子(北海道新聞記者)

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