コロナ禍で妊産婦が孤立 産後うつに気を付けて

感染を防ぎ家にこもりがちの親子に、乳児用の歯ブラシを届ける北海道ネウボラの五嶋絵里奈代表(右)

新型コロナウイルスの感染拡大で社会との接点が減った妊産婦は、「産後うつ」に注意が必要です。筑波大などの調査では、コロナ禍の道内妊産婦に全国他地域より高いうつ傾向がみられており、専門家は妊産婦に「一人で悩まず、相談先を見つけて」と呼び掛けています。

相談先確保を 電話やオンライン教室

「離乳食中のミルクはやめた方がいいのかな…。そんな悩みを誰かに話したかった」。1歳の娘を持つ札幌市の和田真湖さん(41)が9日、自宅を訪れた札幌市の子育て支援団体「NPO北海道ネウボラ」の五嶋絵里奈代表(40)に漏らしました。五嶋さんが「まだミルクをあげても大丈夫」と答えると、和田さんがほっとした顔を見せました。

和田さんは出産後、あちこちの子育て教室に通ってきましたが、感染拡大で休止が続き、家にいる時間が増えました。外出は控えていましたが「ずっと娘と2人きりで家にいると、ストレスで違う病気になりそう」と思い始め、いまは再開した一部の教室に時折、顔を出し、この日は、ネウボラの訪問サービスを利用しました。

ネウボラは、コロナ禍で家にこもる乳幼児と母親を応援しようと、7月に0~2歳児に歯ブラシを届ける訪問サービスを開始。訪問先では子どもの遊び相手や母親の相談相手も担います。

4月に始めたLINEの子育て相談には、15日までに100件余りの相談が寄せられました。「助けてくれる人がいない」「子連れで外出すると、ばい菌扱いされる」などと孤立を訴えながらも、「聞いてもらえただけで楽になった」と言う人が大半といいます。

今、道内の妊産婦の心は健康なのでしょうか。筑波大の松島みどり准教授(医療経済学)が6月に全国の妊娠期から産後6カ月の母親を対象に行った調査では、道内妊産婦にうつ傾向が表れました。

調査は、育児アプリを開発するカラダノート(東京)の協力で、産後うつの選別法「エジンバラ産後うつ病質問表」を使いインターネットで行われ、全国5558人、道内161人が答えました。回答はうつ傾向があるほど高い点が付き、9点以上が「うつ傾向が高い」。道内妊婦(初産)は平均8.25点で、地域別で最高。道内産婦は5.58点で、首都圏に次ぐ高さでした。

松島准教授は「道内は全国に先駆け2月に緊急事態宣言が発令され、外出自粛が長く続いたことの影響の可能性はある」と話します。

北海道助産師会は、妊産婦に同会の相談電話の利用を呼び掛けます。道内50余りの会員の中には、オンラインで子育て教室を開く助産院が増え、産院で出産した人も利用できるといいます。

産前産後の悩みの主な相談先

※記事の最後にリンクを掲載しています。

2020年度、札幌、函館など道内10市町村は、出産後に心身の不調や育児の悩みを抱える母親を助産院や医療機関が支援する「産後ケア」に取り組んでいます。主に国が事業費を半分負担し、家族から育児支援が得られない生後4カ月未満の子の母親が対象です(利用料は自治体で異なります)。国は事業補助対象を21年度から1歳未満に引き上げ、産後ケア事業を各自治体の努力義務として広げていく方針です。道助産師会の高室典子代表理事は「1人で悩まず、まず自分にあった相談場所を探して」と悩む母親たちに訴えます。

取材・文/佐竹直子(北海道新聞記者)

「自分にマル」あげて
道助産師会・高室典子代表理事

北海道助産師会の高室典子代表理事に、産後うつに陥らないための母親たちへのアドバイスを聞きました。

高室典子代表理事

高室典子代表理事

産後うつは、誰でもなりえます。キャリアを積みバリバリ働いてきた女性ほど、育児で失敗が続くと「自分は何もできない」と自尊感情が削れ、「今日もできなかった」「これもできない…」と「できなかった探し」をしてしまい、うつ傾向に陥ることが多い。「今日はこれができた」「楽しくなってきた」と、毎日、「自分にマル」をあげてほしい。コロナ禍で行き場を失い1人で悩むお母さんたちに、まずそう言いたい。

高齢化と晩婚化で、今の子育て世代の親は初孫の誕生と自分の親の介護が重なります。退職年齢が上がり、まだ働いている親も多く、昔のように「産後は実家で」というわけにはいかないケースが多い。コロナ感染を恐れ「出入りしないで」と実家にくぎを刺された話も聞きます。

お母さんは、困った時は「困っている」と声を上げ、堂々と第三者の手を借りてください。


●NPO北海道ネウボラ ライン相談
https://lin.ee/dawNd2M
●NPO北海道ネウボラ ホームページ
https://hokkaido-neuvola.com/
●母子衛生研究会 オンライン母子保健相談室
https://www.mcfh.or.jp/

産後うつ

出産後、抑うつ状態や自責感、子どもや夫に愛情を感じなくなるなどの症状が続く精神疾患。産後3カ月以内に発症することが多く、出産した女性の10人に1人が発症するとされる。子どもへの虐待や育児放棄、母親本人の自殺などにつながるおそれがあり、妊娠中からうつ傾向がみられることもある。日本産婦人科医会によると、近年、虐待死した子どもの4~6割が0歳児で、加害者のほとんどは実母。同会は「妊産婦のケアは重要な社会的課題」と訴えている。

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