双子や三つ子、多胎育児大変さ知って 孤立回避へ支援あれこれ

双子や三つ子の親子が集まる「んぐんぐまーま」の集会。スタッフが子どもの世話を手伝う間、母親たちが情報交換できる

双子や三つ子の親子が集まる「んぐんぐまーま」の集会。スタッフが子どもの世話を手伝う間、母親たちが情報交換できる

双子以上の「多胎児」の育児の大変さが注目されています。昨年は名古屋市で双子用ベビーカーでのバス乗車を拒否された母親がSNSに投稿し話題を呼びました。一昨年には産後うつの状態となった愛知県の母親が育児を抱え込み、三つ子の一人を床にたたきつけて死なせる事件が起きました。同時に2人以上の乳児を育てる精神的・体力的負担を和らげようと、国や自治体も支援に乗り出しています。

札幌大谷短大の子育て支援センター(東区)では毎月1回、双子や三つ子の多胎児親子の会「んぐんぐまーま」の集会が開かれています。1月下旬には約20組の親子が参加。保育士資格を持つ学生や、NPO法人のスタッフが子どもの世話をサポートし、母親たちが交流しました。

人数分、手が欲しい 動き把握できず

生後7カ月の三つ子の母親(44)は「生後4カ月ごろまでがすごくつらかった。3時間おきに3人に授乳するので、睡眠時間は1回1~2時間程度。眠すぎて、子どもを落としそうになったことが何度もある」と打ち明けます。会社員の夫は単身赴任中。市内に住む70代の実母が献身的に手伝ってくれますが、年齢も考えると、過度な負担はかけられないと思う。「本当は子どもの人数分、大人の手が必要だと感じる」と話します。

気持ちがふさぎ込んだり、落ち込んだり、子どもに対してネガティブな感情を持ったことはあるか

3歳の双子男児の母親(35)は、息子たちがイヤイヤ期を迎えた昨年の冬、「ノイローゼ気味だった」と振り返ります。冬はベビーカーでの外出が難しく、家で母子だけで過ごします。地域の子育てサロンに足を運びましたが、気分転換にはなりませんでした。「他の母親は自分の子どもの動きを把握できているのに、私は(2人の動きを)把握しきれない。私だけちゃんとしていない母親のように思えてつらかった」。多胎児親子の会では「他の親も似たような状況なので、安心できる」と言います。

人口動態統計によると、多胎分娩(ぶんべん)の割合は、不妊治療の普及などを背景に1980年の0.6%から2018年は1.0%に増加しました。道内の18年の多胎分娩件数は双子309件、三つ子3件。

悲観 9割が経験 バス利用も一苦労

民間団体「多胎育児のサポートを考える会」(東京)が多胎児の親約1600人に昨秋行ったアンケートでは、多胎育児中に「つらい」と感じた場面(複数回答)として「外出・移動が困難」(89.1%)、「自身の睡眠不足や体調不良」(77.3%)を挙げる人が多く、気持ちがふさぎ込んだり、落ち込んだりした経験のある人は93.2%に上りました。

多胎育児中に「つらい」と感じた場面

公共交通機関での外出は難しいのでしょうか。多胎児親子の会の世話役の一人、長沼美香さん(24)は一度、双子の乳児を前後に抱っことおんぶをしてバスに乗ったことがありますが、体に負担がかかるうえ、2人とも泣きだして周囲に迷惑をかけないかも不安で、落ち着かなかったといいます。現在の移動手段は主にタクシーです。「費用はかかるけど、諦めています」

育児マニュアル通りに育てられないことに、悩む人もいます。「赤ちゃんが泣いたら、抱っこをしましょう」と書かれていても、2人同時に泣くと、抱っこできるのは1人だけ。「もう1人の子に良くないことをしていると思うと、つらかった」という母親も。

既存の子育てサービスの利用も簡単ではないようです。多胎児親子の会に参加したことのある、1歳の双子の母親(30)は、協力者の自宅で子どもを預かってくれるファミリーサポート事業の利用を検討したものの、登録や利用手続きに外出や電話申し込みが必要なため諦めたといいます。この母親は「保健師やヘルパーが、自宅を訪問してくれるサービスがあると助かる。申し込みは電話だと寝た子が起きてしまうので、メールやSNSで申し込みできると利用しやすい」と話します。

「育児サポーター」派遣へ 国が新制度

国は新年度から、多胎家庭への支援を始めます。双子以上の多胎児がいる家庭に「育児サポーター」を派遣する市町村に対し、費用の半額を補助。外出困難などの問題を抱えて孤立しやすい多胎家庭に助産師や多胎児の育児経験がある親がサポーターとして訪問し、育児や外出を支援することで、負担の軽減を図ります。

多胎家庭への支援はこれまで、既存の子育て支援制度の対象に「当然含まれている」と理解され、多胎に特化した支援策は乏しかったです。日本多胎支援協会代表理事の布施晴美・十文字学園女子大教授(小児看護学)は「既存の制度では、多胎家庭には支援が行き届いていないのが現状だった。多胎家庭への支援の必要性を、国が明確に認めたのは大きな前進。自治体や、保健師・助産師などの専門職にもそうした認識が広がってほしい」と期待します。

自治体ごと 施策に差

道内では、旭川市が今年8月から「産前・産後ヘルパー事業」の実施を予定しています。家事や育児の民間ヘルパーサービスを1回500円で利用できる支援事業で、単胎家庭の上限20回に対し、多胎家庭は40回まで利用を認めます。20年度の予算は570万円。多胎家庭の利用回数を多く認める理由として、市子ども総合相談センターは「多胎家庭は身体面や精神面の負担が大きく、人手を必要としているため」と説明します。

同市はまた、多胎妊娠の母親に、石川県などの専門家グループが作成した冊子「ふたご手帖(てちょう)」を配布しています。「多胎は妊娠経過や産後の育児が単胎とは異なる。早いうちから情報を得て学び、負担の軽減と、健やかな育児に役立ててもらうのが狙い」(母子保健課)といいます。道外の自治体でも、多胎家庭にヘルパーを派遣したり、タクシー代を補助するなどの支援が広がっています。東京都は新年度から、多胎妊婦や3歳までの多胎児がいる家庭を対象に、乳幼児健診や予防接種のためのタクシー利用料を年2万4千円を上限に補助する事業を始めます。

道内では、道は多胎家庭への支援策について「現在はなく、今後も特に実施予定はない」(子ども子育て支援課)とし、札幌市は、国が新年度から実施するヘルパー派遣事業について「国の動きをみながら、実施を検討する」(子ども企画課)とします。

布施教授は、自治体の支援事業の実施状況について「各自治体や専門職の熱意により、まだ差があるのが現状」とした上で、多胎児の出産がない町村もあることから「今後は中核的な都市が中心となって多胎家庭支援を行い、周辺の自治体も広域的に利用できるよう、連携を進めるのが理想」と話しています。

行政支援のほか、民間では多胎家庭を支えるさまざまなサークルがあり、母親たちが交流をしています。

取材・文/酒谷信子(北海道新聞記者)

多胎育児サークルの連絡先

● んぐんぐまーま(札幌市東区)
 ☎︎011-742-1690(連絡は木曜日10:00〜15:00)
● さくらんぼの会(札幌市手稲区)
 sakuranbo.teine@gmail.com
● ハッピーキッズ旭川支部
 happykids_asahikawa@yahoo.co.jp
● ペアビーンズ
 ☎︎0166-74-4180(旭川NPOサポートセンター)
● ハッピーキッズ函館本部
 fuku-masa-pluto@i.softbank.jp
● 双子サークル
 ☎︎0138-45-1380(函館・亀田港子育てサロン)
● 双子ザウルス
 ☎︎0155-25-9700(帯広市子育て支援課)
● ツインズ
 ☎︎0125-24-5256(滝川市健康づくり課)

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