生きる力「非認知能力」を育む野外教育に熱視線 札幌・福井もりと風の保育園

広葉樹の木立の中にある「秘密基地」で思い思いに遊ぶ子どもたち

室内でゲームをしたり、本を読んだりするだけでなく、太陽の下で野原を駆け回り、草花や吹く風に季節の移り変わりを感じる―。就学前の幼児期の外遊び、野外教育の重要性は以前から知られていましたが、最近は人生を生きる力となる「非認知能力」を育むことでも注目されています。

バッタ捕り、秘密基地…河川敷散策 何でも遊びに

9日、札幌市西区福井を流れる左股川(ひだりまたがわ)。秋晴れの中、福井もりと風の保育園(福井8の4の1)2~5歳児クラスの10人が隊列を作り、河川敷の小道をにぎやかに進みます。高橋さくら園長(52)ら3人の保育士が引率します。

「バッタだ」。小さな茶色のバッタを男の子が素手で捕まえました。今度は、子どもたちがフェンスに絡むように生えるヤマブドウを見つけ、黒紫色の実を採ります。頰張った女の子が「酸っぱい!」と叫びました。「少し前はクワの実をみんなで食べていました」と、ほほ笑む高橋園長。

ススキの白い穂が風に揺れます。子どもたちが折ろうとしますが、硬い茎はなかなか折れません。

「やった!」。根元から折り取った子が得意そうにススキの穂を頭上に掲げます。自分の背より長い穂を、しっぽのように引きずって歩き出しました。何でも遊びになります。

園から30分ほどで、目的地である河川敷の「秘密基地」に到着。広葉樹の木立の下に大きな石が点在しており、子どもたちが思い思いに遊び始めました。

周辺の緑地や公園が園庭代わり

もりと風の保育園は企業主導型の認可外保育園で3年前、住宅街の一角に開園しました。敷地面積は約290平方メートルで、木造平屋約195平方メートルの園舎にはスポーツクライミングの一つ「ボルダリング」の壁やロフトなどが設けられていますが、園庭はなく、代わりに周辺の左股川緑地や五天山公園などが野外保育の場となっています。

22人の園児の大半は、地元の福井地区から通います。高橋園長は「うちの保育は野遊びが基本です。自然の中でいろいろなことを感じ、体験して生きていく上で大切なものを培っていってもらえたら」と話しています。

五感で学び、心も成長 国学院大学北海道短期大学部・田中一徳教授に聞く

田中一徳教授は大学構内の草地に野外活動スペースを開設し、幼児教育を学ぶ学生の野外教育実習を実践している

大学構内の草地に野外活動スペースを開設し、幼児教育を学ぶ学生の野外教育実習を実践している

野外教育について、国学院道短大(滝川)の幼児・児童教育学科の田中一徳教授は「特に神経系が発達する幼児期は、自然の中で遊んでさまざまな経験をして五感で学び、豊かな感性を育てるのが大切です」と重要性を説きます。

最近、特に注目されているのがテストなどでは測れない「非認知能力」です。田中教授は「折れない心ややり抜く力、自尊感情などを指します。子どもたちがこれから社会で生きていくために必要なものです」と説明します。

幼児の野外教育の効果、非認知能力、アクティブラーニング

「自然の中では雨が降ったり虫に刺されたり、何が起きるか分かりません。こうしたことに遭遇し、克服する過程を経験することで、思考力や判断力、表現力、リスクマネジメント能力が身につくことが期待できます。木登りしたり、凸凹の地面を歩いたりすることで身体能力も発達します」

一方で、田中教授は道内の幼児教育の現状を懸念しています。「一部の認可外保育園や幼稚園では野外教育を導入していますが、全般的には周囲にある圧倒的な大自然を生かしていないのではないでしょうか。道内の小中学生は全国的に体力が劣り、学力も低い傾向にあります。幼児期から自然に親しんでいれば、そんなことにはならないはずです」

取材・⽂/和田年正(北海道新聞編集委員)

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