偏食への対応、心地よい環境から

写真はイメージ(プラナ / PIXTA)

子どもの食べ物の好き嫌い・偏食に悩む親が多いことが分かっています。偏食は成長してからの健康リスクにつながり、幼児期も風邪をひきやすいという研究もあります。厚生労働省は今年3月公表のガイドで、偏食への対応として、食への興味をひく方法などを紹介しています。また、道内の当事者家族や食育専門家は「楽しく食べることが大切」と指摘しています。

「一緒に楽しく食べる」時間が大切

「『みっちゃん』が幼いころ、チョコレートしか食べなくなったことがあり、口を無理やり開けさせて、野菜を押し込んだこともありました」。自閉症の長男みつきさん(13)ら家族の日常を動画サイト「ユーチューブ」のチャンネル「Hikari Kizuna TV」で発信する道央在住の女性(42)=動画内では「ママ」=は振り返ります。「結局、さらに食べなくなった。嫌な思いをさせたことを後悔しました」

障害のあるみつきさんだけでなく、長女ことりさん(10)も野菜や肉、果物類をほとんど口にしません。会社員のパパ(39)は野菜と果物が苦手です。ことりさんの場合、味覚と嗅覚が鋭く、こまかく切ったり、すりつぶしたりしても食べません。例外はカレーで、野菜の色や形がなくなれば食べてくれます。動画でも野菜をルウに溶かし込み、2人が食べるシーンを収めています。

ママ、パパ、子どもたち向けに別々に調理するほか、一緒に食べるものでは麺類が多いといいます。

偏食のある子供向けに野菜や果物の形をなくしたカレー作りの一場面(Hikari Kizuna TVから)

偏食のある子ども向けに野菜や果物の形をなくしたカレー作りの一場面

偏食対策の工夫を凝らしたカレーライスを食べるきょうだい(Hikari Kizuna TVから)

偏食対策の工夫を凝らしたカレーライスを食べようとする、みつきさん(左)とことりさん兄妹=いずれもユーチューブ「Hikari Kizuna TV」の動画から

厚労省の乳幼児栄養調査(2015年)では、2~6歳の子どもがいる世帯のほぼ3割が「偏食する」と回答しています。原因として、味覚が発達する離乳期に特定の味のみに慣れたことなどが挙げられ、「わがまま」「親の責任」に帰されることも少なくありません。しかし、味覚や嗅覚、見た目の違和感、口内への刺激などに対する生来の敏感さが原因とみられることも多いことが分かっています。

多様な味に触れて慣れることも効果

偏食が健康に与える影響について、旭川大短期大学部教授の豊島琴恵さん(調理学、応用栄養学)は「栄養面で一部しかとらない状況が続けば、将来的に生活習慣病の原因になりかねない」と説明します。

また、大正大などの研究班による全国の3~5歳児を対象とした調査(19年)は、野菜を食べる量が多いなど偏食の少ないグループは、偏食の多いグループに対し、風邪をひきにくい・発熱しにくく・疲れにくい―という結果を示しています。

では、偏食にどう向き合えばよいのでしょうか。

厚労省が今年3月に公表した「幼児期の健やかな発育のための栄養・食生活支援ガイド」は、偏食や小食に対する対処方法をQ&Aで示しています。自分で食べる量を決めさせ完食できれば一緒に喜ぶ、メニューのネーミングを興味・関心があることにする、調理や野菜の栽培などにかかわる―などが挙げられています。

厚労省が2022年3月に公表した幼児期の健やかな発育のための栄養・食生活支援ガイド

豊島さんは「一般的には、離乳食のころから素材本来の持つさまざまな味を感じさせることで、好き嫌いが少なくなることが多い」と説きます。さらに「何より大切なのは、誰かと一緒に楽しく食べる時間・空間をつくること。その環境でゆっくりと時間をかけて、いろいろな味に触れて、慣れる必要もある」と強調します。

「Hikari Kizuna TV」のママも、「今は食べる時間を楽しくするように心がけている」と語ります。転機は7年ほど前、みつきさんが通所したデイサービスセンターの職員のアドバイスでした。「食べる・食べないばかりに注目せず、いろいろな経験をさせていると考えてみては」という言葉に心が救われたそうです。

最近、みつきさんは以前は口を付けなかったスパゲティや、冷めた料理も食べるようになりました。ことりさんも、仲の良い友達と一緒にいると苦手な果物を食べることがあるそうです。ママは「周りに合わせて、少しずつ変わっている」と感じています。「これからも、焦らずにやっていきたい」

自閉症のみつきさんや、家族の偏食の様子を描く「Hikari Kizuna TV」は(https://www.youtube.com/c/TVHikariKizuna)で視聴できます。

取材・文/弓場敬夫(北海道新聞くらし報道部編集委員)

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