「リトルベビーハンドブック」普及を呼びかけ 母親グループ、道に発行要望

リトルベビーハンドブックの必要性や、当事者家族のつながりの大切さを訴える小倉舞さん、悠愛さん母子(右側)と、高橋日奈さん、愛乃さん母子(石川崇子撮影)

小さな体で生まれた「低出生体重児」の家族を支える手帳「リトルベビーハンドブック(LBH)」が注目されています。身長20センチ、体重0グラムから書き込めるグラフや、先輩ママ、パパの励ましの声など、一般的な母子手帳には無い、当事者の親子に寄り添う内容が特徴です。全国では導入が広がっていますが、道内は苫小牧市のみが発行しています。道内の母親グループが5月、「道内全域で同じ情報が得られるようしてほしい」と、道に発行を働きかけました。

母子手帳を補完 当事者に寄り添う
道内は苫小牧市のみ導入

厚生労働省は、出生時の体重が2500グラム未満の子どもを低出生体重児、1500グラム未満を極低出生体重児、千グラム未満は超低出生体重児と定義しています。人口動態統計によれば、2020年に道内で生まれた赤ちゃん2万9523人のうち、出生時に2500グラム未満だった子は2703人で9.2%。このうち「極低」の子は210人で0.7%、「超低」の子は92人で0.3%でした。

「初めて抱っこしたのは生後2カ月たってから。退院してからも不安ばかりだった」。「北海道リトルベビーサークルゆきんこ」共同代表の小倉舞さん(38)=札幌市=は、妊娠28週目の19年6月に体重597グラム、身長26.8センチで生まれた悠愛(ゆな)ちゃん(2)の出生後を振り返ります。

もうひとりの代表、高橋日奈さん(34)=室蘭市=は、妊娠25週目の19年4月に体重772グラム、身長31センチで生まれた愛乃(あいの)ちゃん(3)の母親です。「低体重児についての欲しい情報は、ネットでも見当たらずつらかった」。不安だらけだった2人をつないだのは、SNSのインスタグラムでした。

小倉さん、高橋さんが不安をかき立てられた要因のひとつが母子手帳でした。月齢に応じて身長と体重を記録するグラフは、身長が40センチ、体重は千グラムから。2人ともわが子のデータを書き込むことができませんでした。

月齢ごとに「手足をよく動かしますか」「お乳をよく飲みますか」などの質問に答える欄は、ほとんどが「いいえ」にチェックを入れることになり、気持ちが沈むことがありました。出産予定日から数える「修正月齢」を持ち出して、無理やり「はい」と記入したこともありました。2人とも「なぜ普通に産んであげられなかったんだろう」と自身を責めたといいます。

リトルベビーハンドブックに掲載されている発育を記録するグラフの例(男子の身長)(省略)

リトルベビーハンドブックに掲載されている発育を記録するグラフの例(男子の身長)(省略)

自治体として初めてLBHを導入したのは静岡県です。18年に配布を始めました。成長のグラフは身長20センチ、体重0グラムから。発育状況の質問は月齢ごとに「はい」「いいえ」で答えるのではなく、「できた日」や「見つけた日」を記入します。さらに、運動機能の発達を確認するポイントや、困った時の相談窓口の情報に加え、先輩ママのメッセージや医療機関スタッフの励ましの声も掲載しています。

これまでに8県と、埼玉県上尾市などがLBHを導入しています。道内では20年9月に苫小牧市が開始。静岡県版を参考に作りました。1500グラム未満で出産した市内の母親らに配布しています。情報交換でLBHの広がりを知った小倉さんたちは、「今まさに困っている人や、今後出産する人に役立つ」と、5月中旬に道の子ども子育て支援課に発行を要請しました。同課は「なんらかの形で前に進めていきたい」と前向きな姿勢を示しています。

LBH作成を支援している「国際母子手帳委員会」事務局長の板東あけみさんも「低出生体重児が入る新生児集中治療室(NICU)を置く病院には他市町村からも妊婦が集まるので、市町村よりも、都道府県が発行に携わるべきだ」と訴えています。

小倉さんは「LBHが普及すれば、当事者家族が何に悩んでいるかの理解も進むのでは。なんといっても、同じ境遇の人たちと相談や情報交換がしやすくなることにつながる」と期待しています。

「ゆきんこ」は6月1日時点では14人で活動しています。インスタグラムやライン、メールなどで連絡をとることができます。リンクはhttps://lit.link/hokkaidoyukinco2022から。

母子手帳

正式名称は母子健康手帳です。母子保健法に基づき、妊娠した人が市町村に届け出ると交付されます。妊娠期間中の健康管理などの情報に加え、赤ちゃんの成長記録欄や予防接種の種類と時期、栄養の取らせ方などが載っています。戦時中の1942年に「妊産婦手帳」として発行されたのが始まりです。92年に発行者が都道府県から市町村に移行し、市町村独自の欄を設けることも認められています。

取材・文/弓場敬夫(北海道新聞くらし報道部編集委員)

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